2022年12月09日 1751号

【政府有識者会議が報告書/軍事優先への転換促す/大軍拡の財源は大衆増税】

 岸田政権が軍事力の「抜本的強化」に向けた動きを本格化させている。政府の有識者会議は「自らの国は自ら守る」という「当事者意識」の共有を人びとに求め、「幅広い税目による負担が必要」だと説いた。軍拡の財源は大衆増税で賄え、ということだ。

「反撃能力」を保有

 政府の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」が11月22日、「総合的な防衛体制の強化」に関する報告書を岸田文雄首相に提出した。平和主義を基本としてきた戦後日本のあり方を根本から転換し、国政のあらゆる課題を軍事優先で進めることを促す内容になっている。

 報告書は「我が国周辺の安全保障環境は厳しさを一段と増して」いるとし、軍事力の抜本的強化を5年以内に達成しなければならないと強調した。具体的には「反撃能力(敵基地等攻撃能力)の保有と増強が抑止力の維持・向上のために不可欠」だと述べ、「十分な数のミサイルを装備すべきである」と訴えた。

 また、「リアルな継戦能力」を向上させるために、弾薬や有事対応に必要な施設を着実に整備しなければならないとした。

 軍需産業については、採算が取れずに軍事部門から撤退する企業が出ている状況を問題視。武器輸出によって企業が投資を回収できるようにするために、輸出に関する制約を可能な限り取り除くよう求めた。

 縦割りを打破した「総合的な防衛体制の強化」も前面に掲げた。先端科学技術の研究成果や空港・港湾などの公共インフラ機能を軍事部門に利活用できるよう、防衛省・自衛隊のニーズを踏まえ、府省間、官民の連携体制を構築することが必要であるとした。

企業負担に配慮

 報告書のハイライトは軍事力増強を支える財源の確保策について述べた部分である。まず、「自らの国は自ら守る」という「当事者意識」を多くの人びとに共有してもらうことが大切だと強調。歳出改革の取り組みを前提とした上で、「なお足らざる部分については、国民全体で負担することを視野に入れなければならない」と指摘した。「安定した財源」の確保は増税で、ということだ。

 報告書は具体的な税目を示してはいない。「幅広い税目による負担が必要」という表現に止めた。だが、原案の段階では財源の一つとして法人税の引き上げに言及していた。法人税の文言が削除されたのは財界の意向による。

 経団連の十倉雅和会長は10月3日の記者会見で「(軍事費は)国民全体で負担すべき性格のもの。法人税の議論が先行するのはいかがなものか」とけん制していた。11月21日の会見でも「広く薄く、国民全般で負担すべきだ」と改めて主張した。これは所得税の増税のみならず、消費税を上げることを念頭に置いた発言とみていい。

 結局、報告書には「多くの企業が国内投資や賃上げに取り組んでいるなか、こうした企業の努力に水を差すことのないよう」という表現だけが残った。巨大企業には忖度しても、生活苦にあえぐ市民には容赦しない―。まさに岸田政権の姿勢に合致した御用提言というほかない。

生活圧迫は必至

 有識者会議は財務省出身の官邸官僚が取り仕切ったこともあり、国債(借金)発行を軍事費調達の前提とすることを「あってはならない」と批判した。安倍晋三元首相が唱え、今も自民党内に賛同者が多い「防衛国債」論に釘を刺したかたちとなった。

 安倍一派が国債発行に固執するのは「何が何でも軍拡」という発想が根底にあるからだが、世論の反発をおそれてのことでもある。いま増税を口に出せば、軍事費倍増計画自体がつぶれかねないというわけだ。

 11月23日付の朝日新聞は、「『税で防衛強化』に自民反発」との見出しで、増税に理解を求めることに消極的な与党議員の動きを批判的に報じている。有識者会議の一員である同社元主筆(船橋洋一)の影響が感じられる記事だ。

 有識者会議メンバーには船橋のほかにも新聞社の幹部が2人いる(「読売」社長と「日経」顧問)。そのせいか、ほとんどのメディアは「反撃能力」の保有をはじめとした軍事力の増強を既定路線として報じている。軍事費の増額もしかり。増税にせよ国債発行にせよ、重い負担を背負うのは市民なのに、そこはさらっと流している。

 今回の報告書が示すように、岸田政権は憲法の平和主義を完全に投げ捨てる大軍拡路線に踏み出した。しかも財源は大衆増税で賄うつもりだ。軍事最優先の政治が市民生活を圧迫し悲惨な結果をもたらすことは、他国の事例を引き合いに出すまでもなく、戦前の日本が証明している。 (M)

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