2007年09月07日発行1001号
イラク最新ルポIFC衛星放送サナテレビに希望を見た(12)

【クルド地区−地方政府の腐敗が横行 / IFCの活動に高まる期待】

 民族・宗派間の抗争が続くイラクにあって、「別の国」といわれるほど治安のよいクルド地域。だが、石油利権をはじめ経済権益を巡る対立、腐敗は蔓延している。クルド民族政党は、アラブ人やトルクメン人に対する民族差別を煽っている。いつ爆弾事件へつながるとも限らない。人々の願いは、「クルドでもアラブでもない、人間として」安心して暮らせることだ。IFC(イラク自由会議)の政策を伝えるサナテレビは、いよいよクルド語放送も始める。民衆の期待は高まる。(豊田護)


民族分断の激化

 スレイマニア郊外。りっぱなマンションが建ち並ぶ。まだ、工事中のようだ。敷地の整地は済んでいないし、外構もできていない。夜10時は回っている。この時間に街を走れるのは、さすがにクルド地域だ。

 向かった家は、クルド地方政府で働くプシュティワン・ナセフ(41歳)。サナテレビをはじめてみた時の感想を聞いた。

 「サミール・アディルがフィリピンのマニラ大会で演説をしている場面だった。ナディアがアラビア語に訳していた。とてもうれしかった。フィリピンでも、イラク国民とIFCを支援する大きな国際大会が開かれているのを、この目で見たからだ」

 彼は、労働組合の活動家でもIFCのメンバーでもない。だが、サナテレビを通じて触れるIFCの活動に多くの期待を寄せている。

 「サナテレビは、宗派の違いだけを語り宗派間抗争を煽る他のテレビ局とは違う。民衆の権利について語るまったく違うテレビだ。ぜひ聞いてほしいことがある。他の人たちもみなサナテレビに期待していることを私に話してくれた。そのことが、私にはとてもうれしかった」

 試験放送がはじまる前から、近所の人々は「いつ始まるのか、何時から放送だ」と聞いてきたという。

 クルド地域では、サダム・フセイン政権下で冷遇をかこったことを逆手に、クルド至上主義がエスカレートし、アラブ人やトルクメン人などに対する差別が激しくなっている。逆に、バグダッドではクルド人に対する迫害が強まっている。IFC中央委員のアザト・アフマドは、バグダッドの会議には1月以来行っていない。「アラビア語を話しても、クルドなまりがすぐばれる」と警戒する。

 アルビルで政府施設が爆弾攻撃を受けた。スレイマニアでは、8月14日、ストックホルムとスレイマニア間を結ぶノルディック・エアウェイが攻撃を受け、就航を中断した。

 対立と分断が煽られるイラクで、IFCの政策はどの地域にとっても大歓迎なのだ。

泥棒同然の政府

 取材に訪れたのは、引越しの日だった。彼が入居したのは、クルド政府の公務員住宅。200m2ほどはあるだろうか。分譲価格は2万7千ドル(約300万円)。市価の7割程度の値段だという。最初に半額を支払い、残りは10年間の分割払い。利息はほとんどない。とはいえ、月収600ドルの6分の1以上は返済に消える。妻も同じく地方政府の厚生省で働いている。中流家庭のクラスと思える。

 プシュティワンにクルド政府をどう思うか聞いてみた。優遇される公務員だけに、批判めいた言葉は出ないと思っていた。

 「やつらは、盗人だよ」

 その言葉に驚いた。

 「水道がないから水を買わなくちゃいけない。電気が来ないから発電機を買わなくてはならない。これでは、政府ではない。住民になんら奉仕していない」

 彼の言葉は、途切れることなく政府批判を続ける。

 「住民のためには何もせず、

自分の利益だけを追求している。こんな政府をあなたがたは見たことがないだろう」

 残念なことに、盗人のような政府は世界中にゴロゴロしている。

 クルド政府のホームページには、今年の5月、水資源大臣がオーストリアに出向きウィーンの水道システムを視察したり、関連企業と面談したことが載っている。だが、クルド地域の水道事情は、他の地域同様ほとんど改善されていない。

 水資源省の職員で、水源の井戸を掘る機械技師であるプシュティワンは語る。

 「私たちが水源を掘っているのは、彼ら地方政府のためで、住民のためにはなっていない。水道その他の公共資源は、ほとんど彼らの党のものとなってしまっている」

人々の希望はIFC

 一体どういうことになっているのか。彼の話では、立案された水道事業計画は、住民が必要としている地域に送配水するものではなく、地方政府・政党の利害が優先するものになっているというのだ。

 確かに、昨年の取材で訪問したアルビル郊外の貧民区を再訪してみたが、劣悪な住環境はまったく変わりなかった。

 「言えることは、政府の利益と住民の利益は違うということ。われわれの仕事は住民の利益ではなく、政府の利益にしかならない」

 8月29日、スレイマニアでコレラが発生した。不衛生な飲み水が原因、と国連児童基金(UNICEF)は指摘する。スレイマニアで水道施設が利用できるのは3割に過ぎない。医療制度も含め最低限の住環境すら守れない。治安が安定しているからといって、政府の機能が発揮されるとは限らないのだ。

 米政府が提供した19万丁のライフルの行方がわからない。横流しの疑惑が出ている。駐留米軍関係の契約をめぐり贈収賄事件が相次いで起訴されているが、氷山の一角だろう。独裁を強めるクルド民族政党が、復興資金を私物化していることは多くの住民が口にする。クルドの駐留米軍指揮官が、クルド政府の治安担当顧問となった。民間軍事サービス会社を経営し、要人警護などを請け負っている。

 占領軍の後押しを受けたクルド政府の専制と腐敗はいっそう進んでいる。

 「私は、IFCを強く支持する。私の希望であり、人々の希望であると思うからだ。米国とイスラム政治勢力、党派間暴力とテロリズムから人々をぜひ救い出させなくてはならない。IFCが唯一の道だと思っている」

 プシュティワンの思いは強い。サナテレビでは、キルクークとスレイマニアにスタジオ開設の準備が進んでいる。クルド現地で作成される番組の放送もまもなくだ。(続く)

 

  

 

 

 

 

 

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