2007年09月14日発行1002号(2007年9月21日号)

【暴かれたイラク戦争向け給油 安倍辞任は派兵継続のため】

追いつめられた末に辞任

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でブッシュからハッパをかけられた安倍は、自衛隊の給油活動は日本の「国際公約」になったと宣言し、首相の職を賭けて取り組む、できなければ「職責にしがみつかない(=退陣)」とまで言い切った。

 その舌の根も乾かない9月12日、突然安倍は首相辞任を表明し、全国民を唖然とさせた。安倍は記者会見で、テロ特措法延長のめどが立たないいまの局面を打開するための辞任と述べた。だが、6割近い国民がテロ特措法の延長に反対するのは、自衛隊の給油活動自体が嘘とデタラメだらけであり、その真相が次々と暴かれはじめているからだ。

イラク攻撃の艦船へ給油

 テロ特措法の活動は、アフガニスタンなどの「テロリスト」勢力への補給路を断ちテロリストの拡散を海上で阻止する活動に従事する艦船への飲料水・燃料補給と宣伝されてきた。

 実態は、その活動の多くがイラク侵略戦争に対する給油支援(後方支援)だった。

 疑惑は過去にも報じられていた。2003年12月、海自補給艦「ときわ」が北アラビア海で米強襲揚陸艦ペリリュー、ドック型揚陸艦ジャーマンタウン、ミサイル巡洋艦ポートロイヤルの3隻に航空燃料を提供したことが米海軍のホームページや米第5艦隊の機関紙などで明らかになった(04年8月「しんぶん赤旗」)。この3隻は、第1遠征攻撃群に所属し、「イラクの自由作戦」(イラク戦争)と「不朽の自由作戦」(アフガン戦争)支援のためにアラビア海やペルシャ湾に展開していたものだ。またペリリューが運んだ第13海兵遠征隊は占領軍としてイラク南部に配置された。「ときわ」は03年2月、イラク開戦時に南部を攻撃した空母キティーホークにも給油しており、同空母艦長がその事実を認めている。

 江田憲司・衆院議員が最近の米第五艦隊ホームページを調べたところ、「イラクの自由作戦」の標題項目の中に「日本政府は8662万9675ガロン(30万キロリットル)以上、7600万ドル相当以上の燃料の貢献をしてきた」と記載されていた。海自が公表している米英補給艦への給油量は38万キロリットル(全体は48万キロリットル)。米英給油分の多くの部分がイラク戦争に使われたことを推定させるものだ。

 政府は、給油対象艦は交換公文(協定)で決められたもの、アフガン戦争に限られているという。しかし、石原自民党政調会長も「海上活動だから、艦船がどこに入っているかは戦時作戦だから公になっていない。イラクの近く、イランの近くもあるでしょう」(9/2テレビ朝日)と語り、給油艦船がイラクやイランへの軍事行動に関わっていることを認めざるを得ないのだ。米国防総省はホームページの当該記述を削除した。

 政府はこの5年間の給油活動に延べ59隻の護衛艦(戦闘艦)・補給艦、1万1千人の人員を派遣してきた。02年には最新鋭のイージス護衛艦を初めて海外派遣した。

 インド洋での海上阻止行動は、具体的な「成果」など示すこともできず、活動規模も目に見えて縮小している。それとは反対に、アフガニスタンでは戦闘が拡大・深刻化し、米軍の作戦や自爆テロによる市民の犠牲が増大している。戦闘行為が農業などの生活基盤の復興を妨げ、国民の生活は破壊されたままだ。

 テロ特措法を口実に行なわれてきた給油活動とは、武力行使と一体の兵たん活動であり、占領と殺戮を支えてきたものだ。それは、テロ特措法の条文にすら違反するものであった。活動継続の狙いが派兵態勢の維持であることが国民の間に広がれば、「国際公約」「国益」という空論は何の説得力も持たない。

民主主義破壊の新法策動

 自民党は現行法の延長法案が11月1日の期限までに成立しないことを前提に、給油活動継続の新法を検討している。

 新法が参院で否決されれば衆院で3分の2で再議決して成立させる。民主党が審議引き延ばしに出れば、参院送付後60日たってまだ未議決の法案は否決されたとみなすという憲法規定を適用し、衆院で再議決するというシナリオだ。この場合、11月1日を過ぎて現行法が失効し自衛隊が撤退を余儀なくされても、会期延長で新法を成立させ、再度自衛隊を派遣することを目論んでいる。

 PKO法(国連平和維持活動協力法)などは派遣決定の前提に国会の事前承認というチェックを設けていた。現行テロ特措法はこれを破り、国会承認は派遣後でもよいとした。自民党が狙う新法は、この国会事後承認すらなくす国会否定・民主主義破壊法だ。参院で派遣が承認されなければ自衛隊が撤退しなければならないからだ。

 派兵を続け、権力を維持するために、民主主義や国会の2院制など邪魔なものはつぶす。テロ特措法延長のために「自爆」した安倍の首のすげ替えだけで終わらせず、この参戦法を失効に追い込もう。

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