2007年09月28日発行1003号

【「海自給油継続」とメディア / 世論調査で誘導質問 / 作られた「賛成」意見増加】

 安倍首相のお粗末きわまる辞任劇に世論は厳しい反応を示している。一方、各種世論調査を見ると、意外なことに「インド洋での海上自衛隊の給油活動継続」に賛成の意見が増えている。もちろんこれは安倍の「自爆」が一定の効果をあげたからではない。マスメディアの印象操作によってつくられた数字とみるべきなのだ。

〈リード終〉

数字上は「賛成」増

 「灼熱のインド洋で黙々と勤務に従事する自衛隊員こそ、世界から期待される日本の国際貢献の姿です。ここで撤退し、国際社会における責任を放棄して、本当にいいのでしょうか」。所信表明演説でこう訴えた当人が突然の辞意表明−−安倍首相の政権放り出しに対し、世論は厳しい反応を示している。

 毎日新聞の世論調査(9/12、13実施)によると、安倍の退陣について「辞めるのが遅すぎた」とみる意見が62%に達した。参院選大敗後も政権にしがみつこうとした安倍だが、世間からは見放されていた。民意を無視し続けた男のみじめな末路がトンズラ辞任だったというわけだ。

 さて、「毎日」の調査は安倍が政権を投げ出す原因となったインド洋派兵自衛隊の活動継続問題についても賛否を聞いている。結果は「賛成」が49%で、「反対」を7ポイント上回った。

 朝日新聞の世論調査(9/13実施)も同じ質問をしている。こちらは「賛成」35%に対し「反対」45%と反対意見の方が多い。ただし8月末の調査では「反対」が53%だったから、数字の上では反対意見が減ったという結果があらわれている(「賛成」は変化していない)。

 この世論調査結果を受けて、毎日新聞は次のような観測記事を書いている。「海自の給油活動に反対する民主党は『世論は継続に反対だ』と主張してきた。今回の調査でわずかではあるが賛成派が上回ったことは、今後の民主党の対応に微妙な影響を与える可能性がある」(9/14)

 客観的な分析を装っているが、これは民主党の歩み寄りを期待する「毎日」の意思とみていいだろう。

「テロとの戦い」を強調

 しかし本当に世論は変化したのか。もしそうなら理由は何なのか。結論から言うと、海自の活動継続「賛成」増加の世論調査結果は、「毎日」にせよ、「朝日」にせよ、巧妙な誘導によって引き出されたものである。

 「毎日」の質問は「あなたは海上自衛隊がインド洋で行っている給油活動を継続することに賛成ですか、反対ですか」というもの。これでは海自の活動がたんなるガソリンスタンド役ということになってしまう。戦争の後方支援を担っているという事実が被質問者の印象からとんでしまうのだ(それが狙い)。

 「朝日」の質問はさらに誘導的である。「アフガニスタンでテロ組織と戦うため、米軍などの艦隊がインド洋に派遣されています。この艦隊を自衛隊が支援するためのテロ対策特別措置法の期限が11月1日に切れます。自衛隊の活動を続けるために、政府は新しい法案を国会に提出する考えですが、民主党は反対する姿勢です。インド洋で自衛隊が活動を続けることに賛成ですか。反対ですか」

 なんだこれは。「テロとの戦い」を大義名分にして海自の活動継続を狙う政府自民党と同じ論法ではないか。意図的かつ悪質な世論誘導というほかない。

戦争参加を覆い隠す

 インド洋に派兵された自衛隊が行っていることは、たんなる給油活動にとどまらないし、ましてや「テロをなくすための国際貢献」などではない。米軍を主体としたアフガニスタンへの「報復戦争」、それに続く掃討作戦は国際法違反の侵略行為だ。自衛隊は無法な人殺しの片棒を担いでいるのである。

 国際的な人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の報告書によると、06年には米軍主導の連合軍の作戦で230人の民間人が殺害され、戦時法違反の無差別攻撃も多数みられるという。今年4月には、西部ヘラート州で連合軍が数十人の住民を殺害したことで、数千人規模のデモが発生した。

 住民の生活を破壊し、米軍への憎しみをかきたてる武力攻撃がテロリズムを助長していることは米軍関係者自身が認めている。自衛隊は「テロの撲滅」ではなく「再生産」に加担しているのだ。

 しかも米英部隊に対する自衛隊の給油支援の大半が、実はイラク戦争のために使われてきたことが明らかになっている。海上自衛隊による給油活動とは武力行使と一体の兵たん活動であり、侵略・占領を支えてきたのである。

 こうした事実をマスメディアはほとんど伝えず、安倍が連呼した「テロとの戦い」というフレーズをたれ流している。こうした報道姿勢が海自の活動継続のための世論誘導でなくて何であろう。安倍に対する「無責任」というメディアの批判は、支配層の期待に背き、逃げだしたことへの怒りにすぎない。  (M)

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