2008年04月25日発行 1032号

【「軍事費削って医療に」は世界の要求 イラク戦費に批判高まる】


 イラク戦争から5年。サブプライム・ローンの破綻に端を発する米国の金融危機は、これまで好景気の陰に隠れてきた巨額の軍事費の存在をあらためて浮き彫 りにした。世論調査でも、イラク戦費が経済不振の原因だと考える人が大多数を占め、米国の反戦団体は「戦争ではなく医療・福祉・教育を」のキャンペーンを 強めている。

赤字を肥大化させる国防費

   ブッシュ政権は、アフガニスタンとイラクの2つの戦争という「公共投資」(戦争特需)と計1兆5千億j(約150兆円)にのぼる金持ち減税、そして低金 利によって「好景気」をつくり出してきた。ブッシュ政権を支えるグローバル資本の代弁者たちは、軍事支出を公共投資の要と考え、戦争経済がグローバル資本 主義の発展を保証すると信じているのだ。

 だがブッシュが推進した戦争と新自由主義路線は、一方で年間4千億j(40兆円)にのぼる莫大な国家財政の赤字と年間8千億j(80兆円)にも及ぶ経常 収支(注)の赤字を生み出してきた。米国の国家債務はブッシュ政権になってから45%も増加し累積で9兆j(900兆円)を超えた。これは日本の国家予算 の10倍をはるかに上回る。

 巨額の財政赤字の最大の原因は、急増した国防費だ。クリントン政権時代には3千億j(30兆円)台だった国防費はイラク戦費も含め6千億j(60兆円) 台に増えた。

 経済が右肩上がりに成長を続け海外から資金を呼び込めているうちはともかく、海外の資金が逃げ出すようになればドルと米国債は暴落する。住宅建設バブル がはじけ景気後退の流れが明らかな今、この「双子の赤字」は米国民の上に重くのしかかっている。そうした中で、イラクに駐留している兵士の早期帰還ととも に巨額のイラク戦費が大きな問題になっている。

  戦費は週に3500億円

 イラク戦争と占領費を合わせたイラク戦費は、開戦以来5年間で5千億j(50兆円)を超えた。ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ・コロンビア大 学教授らは最近出版した『3兆ドルの戦争』の中で、イラク・アフガニスタンでの戦費に帰還兵の障害手当や生活保障、利子などを加えれば、2017年までの 戦費が3兆j(300兆円)を超す可能性が高いと試算している。

 額が大きすぎてピンと来ないだろうから、スティグリッツ教授がインタビューで述べている比較を紹介しよう。

 教授によれば、いま米国がイラクとアフガニスタンで使っている戦費は、1週間で35億j(3500億円)にのぼる。これに対し、地球温暖化対策に費やし ているのは年間70億j(7千億円)。イラク戦費の2週間分にすぎない。

 しかもこの35億jの戦費のうち、人件費に回るのは6億5千j(650億円)で、残りの30億j(3千億円)近くはボーイングやロッキード・マーチン、 ハリバートンの元子会社ケロッグ・ブラウン&ルートなどの軍需企業のふところに流れ込むのだ。

戦費のために医療費削減

 累積する財政赤字の前にブッシュは、低所得者層医療扶助(メディケイド)と児童向け医療保険の予算を削減しようとしている。

 徹底した新自由主義政策の下で貧富の二極分化が進む米国では、貧困層が急速に増加しており、それに伴いメディケイドの受給者数は2000年から05年ま での5年間で5割も増え5340万人となった。人口3億人の実に6分の1が低所得者向けの公的医療支援を受けていることになる。

 メディケイドの費用は連邦政府と州政府が半分ずつ負担することになっており、連邦政府の支出額は2千億j(20兆円)の規模に達している。

 ブッシュ政権は、年々増え続けるメディケイドへの支出を5年間で78億j(7800億円)削減しようとしているが、これは戦費のわずか16日分を削れば 捻出できる金額だ。

 新しいキャンペーン始まる

 こうした事態を受けて、ブッシュのイラク政策を批判する国民世論はいっそう高まっている。最近CNNとオピニオン・リサーチ社が共同で行なった世論調査 では、国民の7割がイラク戦費が経済不振につながっていると判断している。また、61%が次期大統領は就任後数か月以内に大多数の部隊撤収に踏み切るべき だと答えている。

 米国最大の反戦団体UFPJ(平和と正義のための連合)は、所得税申告納税期日である4月15日を前に、イラク占領のための1020億j(約10兆円) の補正予算要求に反対する取り組みを呼びかけている。

 主な行動としては、イラク戦争と占領が米国の経済危機の原因であることを説明するリーフレットを配布する、主要な高速道路の高架交差路に戦争と経済危機 を結びつける横断幕を掲げる、地元出身の上院・下院議員に議会の権限ですべての兵士を帰国させるよう要請する、といったものだ。加盟団体の一つであるコー ド・ピンクは、戦争のための税金の支払い拒否を宣言する人たちを10万人獲得する運動を独自に開始した。

 またUFPJは、新しく「戦争ではなく医療を」というキャンペーンに取り組む。「軍事費を削って医療・福祉・教育に回せ」は世界共通の要求なのだ。

(注)経常収支
 対外貿易の収支に、国境を越えて移動する投資・利子・配当金・特許料・印税・株式売買益・対外援助などの収支を加えたもの。
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