2008年06月06日発行 1037号

【穀物暴騰が招いた食糧危機 元凶はバイオ燃料と投機マネー】


 穀物の国際価格が高騰している。05年からの3年間で、小麦の値段は3・3倍、トウモロコシと大豆が2・5倍に値上がりした。とりわけ、昨年夏以降の上 昇は急激で、発展途上国の貧困層は生存すら脅かされ、「食糧暴動」が続発している。これは、米ブッシュ政権が火を点けたバイオ燃料(注1)のための穀物買 い占めと投機マネーの参入によるものだ。

世界各地で「食糧暴動」

 穀物価格の急騰を受け、パンやコメを買えなくなった市民たちの抗議デモや「暴動」が世界各地に広がっている。アフリカでは、カメルーン、ブルキナファ ソ、コートジボアールなどで食糧と燃料の値上がりに抗議する「暴動」が発生した。カリブ海の最貧国ハイチでは、食料品の高騰に怒った市民による「暴動」で 国連ハイチ安定化派遣団の警察官を含む7人が死亡。事態を収拾できなかったとして上院が首相を解任するに至った。エジプトでも1枚5ピアストル(約1円) の「政府補助金パン」が不足し、他の食料品が倍以上に値上がりする中、ストやデモが頻発している。フィリピンでも、コメ価格高騰に対する大規模なデモが続 いている。

 穀物価格の高騰は、世界食糧計画(WFP)が行なう78か国7300万人への食糧支援に必要な食糧調達費を5割以上も上昇させた。

 穀物高騰の真の原因

 なぜ穀物価格が高騰しているのか。マスメディアは、さまざまな原因を指摘している。

 中国・インドなどの人口大国で食生活に変化が起こり、家畜の飼料の需要が急増している、ここ2年の間にオーストラリアやロシア・ウクライナ・カナダなど で干ばつが起こり、小麦が軒並み減産となった…。だが、需要の増大は人口の増加とともにずっと続いてきたし、凶作はこれまでにもあった。

 真の原因は、食糧である穀物をバイオ燃料生産に回すための買い占めと投機マネーの穀物市場への参入だ。

ブッシュが進めたバイオ燃料

 "バイオ燃料ブーム"に火を点けたのは米ブッシュ政権が2005年に成立させたエネルギー法だ。同法は、12年までに穀物を原料とするバイオエタノール 75億ガロン(約284億g)の使用を義務づけた。さらに07年12月に成立した新エネルギー法では、目標数値が22年までに360億ガロンと4倍強に引 き上げられた。うちトウモロコシ原料のエタノールは15年までに150億ガロンとされたが、これは07年実績の2倍強にあたる量だ。

 世界のトウモロコシ生産量の約4割、輸出量の約7割を占める米国が国家プロジェクトとして、トウモロコシを原料とするエタノール生産に乗り出したわけ で、その影響は大きい。

 バイオエタノール生産には政府の補助金が支給されるため、生産者(農民)も高く買いとってもらえるエタノール用にトウモロコシを売る人が急増。07年度 には、エタノール用トウモロコシが輸出用を上回った。
 欧州連合(EU)も、20年までに輸送用燃料の10%をバイオディーゼル燃料に切り替える計画だ。

 勢いづく穀物メジャー

 もともとトウモロコシをエタノール燃料として使用するよう働きかけてきたのは、世界の穀物を支配するグローバル資本・穀物メジャーのアーチャー・ダニエ ル・ミッドランド(ADM)社だ。ブッシュと共謀して"バイオ燃料ブーム"を創り出した穀物メジャーは、穀物高騰でぼろ儲けしている。業界2位のカーギル 社は08年1〜3月期に10億300万j(約1033億円)の利益をあげたが、これは前年同期比89%増だ。

 さらに莫大な資金を投じて、世界各地にバイオ燃料工場やその原料となる植物栽培プランテーションを新設・拡張している。ADM社とカーギル社は、インド ネシアやパプアニューギニアなどでオイルパーム・プランテーションを開設し、マレーシアやEU諸国でバイオディーゼル精製工場を操業している。ブンゲ社 は、古くからサトウキビを原料とするエタノール生産が行なわれているブラジルでサトウキビ圧搾工場とエタノール生産工場を取得した。ルイ・ドレフュス社 は、インディアナ州に大豆を原料とするバイオディーゼル工場を完成させた。

 グローバル資本主導による穀物のバイオ燃料へのシフトが、穀物価格を引き上げた大きな要因だ。

 投機マネーの流入

 加えて、昨夏以降の異常な急騰は間違いなく投機マネーによってもたらされたものだ。米国のサブプライム・ローンの破綻をきっかけに株式・金融市場から逃 げ出した投機マネーが、原油市場ばかりでなく穀物市場にも流れ込み、先物取引で価格を吊り上げている。

 世界の主要穀物価格は、シカゴ商品取引所の先物市場で決まるが、4月下旬までの先物買いのうち、小麦の41%、トウモロコシの22%、大豆の24%を 「インデックスファンド」(注2)というファンドマネーが占めていたことが明らかになっている。運用資金約16兆円の2割が穀物市場に投じられたと見られ ている。これ以外にもさまざまなヘッジ・ファンドが利益を求めて参入している。

 トウモロコシ市場は現物・先物合わせて15兆円、大豆市場は4兆円という規模だ。そこへ数兆円もの投機マネーが入ってくれば通常の受給関係が乱れるのは 当然だ。

 ジャン・ジグレール食糧の権利に関する国連特別報道官は、米国とEUが食糧である穀物をバイオ燃料生産に回すことによって世界的食糧価格の高騰を招いて いると批判。「世界は非常に長い暴動の時代を迎えつつある」との警告を発した。

世界を壊すグローバル資本

 「地球温暖化対策」などを名分としたバイオ燃料へのシフトは、住民や環境に深刻な事態を引き起こしている。オイルパーム・プランテーション開発に伴って 熱帯雨林の消滅が進み、インドネシアでは熱帯雨林に依存して生活している3500万人が将来的に生活手段を奪われることになると予測されている。

 また米国でトウモロコシと大豆の輪作体系が崩れ、トウモロコシの連作に切り替わっているように、バイオ燃料向けの穀物生産はモノカルチャー(単一栽培) 化を促進するに違いない。それに伴い土地は痩せ、大量に使われる化学肥料のせいで水質汚染も深刻化している。

 ベネズエラのチャベス大統領は、07年4月に開催された「南米エネルギー・サミット」で、バイオ燃料について「自動車を食わせるために、貧しき人民を飢 えさせることと同じ」と痛烈に批判した。何億人もの人が飢餓と栄養失調に苦しみ、今後も食糧不足が予測される中で、食糧である穀物を「石油代替燃料」に回 すなどというのは非人道的であり、本末転倒だ。

 必要なのは、グローバル資本の利益の源泉である大量生産・大量消費システムからの転換、その象徴としての車優先社会からの脱却だ。

 グローバル資本は自らの儲けのために、民衆の生存に不可欠な食糧生産・供給まで支配し破壊しようとしている。グローバル資本への批判を強め、投機マネー の活動を直ちに規制しなければならない。

(注1)バイオ燃料
 植物(農産物)を原料とする自動車などの燃料。バイオ燃料には、トウモロコシ・サトウキビなどが含む糖質やデンプン質を原料とするエタノールと、大豆・ パーム(椰子)などから採れる植物油を原料とするディーゼル燃料とがある。

(注2)インデックスファンド
 金融情報大手のダウ・ジョーンズや格付け会社スタンダード&プアーズなどが公表する商品市況指数(インデックス)に連動して運用される資金の総称を指 す。
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