2008年08月01日発行 1045号

【道州制へ先導する橋本「大阪維新」 府民には「自助」、大企業には援助】


 橋下大阪府知事の下での08年度本格予算案―「大阪維新プログラム」の審議が府議会で行なわれた。それは、財政再建を口実に、医療・教育・平和・人権な どへの府の関与を大幅に削減。都道府県を解体し「道州制」への移行を進めようとするものだ。  参考 資料

「自己責任」で生存権破壊

 7月1日、08年度の本格予算案審議のために開催された臨時府議会で、橋下は府政方針説明を行った。注目すべきは、「大阪維新プログラム」を市町村への 業務おしつけと府県解体から「道州制」移行へのプロセスとして明確に位置づけたことだ。

 橋下はまず「かつてない超高齢化社会を乗り切っていく重要なキーワードは『自己責任』と『互助』だ」とする。大阪府が行ってきた「相談や見守り、コー ディネート機能は、住民同士が汗をかいて協力し合うことで実施するのが、本来の姿であり、崩壊しつつある地域コミュニティを再生する道。このことがうまく 機能するよう、条件を整えるのが行政の役割だ」とした。

 憲法第25条は第1項で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とし、第2項で「国は、すべての生活部面について、社会福 祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めている。自治体を含む日本の行政機関の責務は、「すべての生活部面における向上・ 増進」だ。

 これに対し、「互助」「住民同士の協力」「コミュニティの再生」など聞こえのよい言葉を並べながら、最低限の「セーフティネット」すら責任の所在を住民 一人ひとりに転嫁する橋下の考え方は、憲法に定められた行政責任の放棄に他ならない。

 行政と住民の役割を逆転させた上で、府と市町村の役割をどう考えているのか。

 橋下は言う。「市町村が、これまで以上にしっかりと地域住民の自立や互助活動を支える。これが可能となるよう、府から市町村への分権≠強力にすす め、大阪府は府域全体のコーディネータ役、プロデューサー役に徹する」

大阪府を解体

 これまで府は、さまざまな住民運動・要求の前に、環境での上乗せ規制、老人・障害者・乳幼児・ひとり親家庭の4医療費公費負担助成、私学助成などの上乗 せ給付―等々の「大阪府下の独自の基準」を設けてきた。国による福祉・医療・教育・環境切り捨てから、一定程度ではあれ、市町村とともに府民生活を守って きたのだ。これらは、市町村を窓口として補助金の形で実施し、また、市町村では技術的・財政的に担えない公衆衛生・教育・経済分野での府民への直接的な施 策を実施してきた。

 橋下は、これまで大阪府が府民生活に果たしてきた役割をかえりみず、住民への直接サービスからは手を引き、府の生存権保障の基準も破壊して、府民生活す べてを「市町村まかせ」にしようとしている。それが、彼が言う「コーディネーター役に徹する」の意味だ。

 「自助自立」と「分権」の名の下に、府民の生存権保障から一切手を引いて、橋下は関西州の創設と大阪府の解体をもくろんでいる。

 橋下は「国家の枠組みを越えて都市間競争が激化しており、大阪・関西が、これを勝ち抜き、さらなる発展を遂げるためには、その持てる力を結集しなければ ならない」とする。そして、「関西全域を視野に入れた、道路や港湾、空港などの物流ネットワークの整備、効果的な企業立地戦略を描くため、指令塔機能を有 したまとまりのある圏域として、各府県で実施している施策・事業や国レベルでの権限・業務を集約する“集権”が不可欠。関西広域連合の実現を急ぎ、『関西 州』へのステップとしていく」と述べ、「そのためには、大阪府の発展的解消も辞さない」との覚悟≠表明した。

資本のための道州制

 これは、日本経団連を先頭にグローバル資本がもくろむ国家改造としての道州制の導入をめざしたものだ。
 日本経団連・御手洗会長は6月19日、読売ビジネス・フォーラム2008で講演。経団連としての道州制への考え方を明らかにした。

 まず、47都道府県をすべて廃止し、新たに10程度の「道」または「州」に統合。市町村・道州・国の三層構造の統治体制にする。そして、市民サービスは 基礎自治体としての市町村が一手に担い、内政はその大半の権限を国から委譲された道州が行うというもの。これにより、6万7千人の国家公務員を地方に移管 し、「公務員ばかりではなく、地方議会の議員の数も大幅に合理化できる」とする。

 また、道州制担当大臣の下に置かれた道州制ビジョン懇談会は3月24日、中間報告を発表した。

 中間報告は、道州制の理念を「新しい国のかたち」として「国政機能を分割して自主的な地域政府『道州』を創設することである」と説明し、目的として国際 競争力の強化と経済・財政基盤の確立をあげる。そして、経団連と同じく、統治構造を基礎自治体(市町村)と道州、国の三層構造とする。国の役割として、外 交・安全保障・通貨・資源エネルギー政策・市場競争の確保など「国際社会における国家の存立及び国境管理、国家戦略の策定、国家的基盤の維持・整備、全国 的に統一すべき基準の制定」に限定する。そして、道州には、「広域の公共事業、高等教育、経済・産業の振興政策、危機管理」などを担わせるとしている。

 これら道州制の下では、どのような国家改造が行われるのか。

 まず、住民の生存権に関わる対人サービスについては、「自助自立」を基本とし、市町村が「その財政能力に応じて」実施することとなる。現在の税収減、交 付税減額の下での「自助自立」「財政能力に応じて」は、福祉・医療など住民サービスの切り捨て、生存権否定に直結する。

 道州は、現行の都道府県の枠組みを越えて各種産業を集積し、地域間の物流=道路・港湾・空港整備を担う。具体的には、道州どうしが減税・補助金交付・公 共投資などの直接・間接の支援策で企業誘致合戦を展開し、グローバル資本が利潤をむさぼるために便利な国内事業の支援体制づくりを競い合うこととなる。

 内政を道州に丸投げし、身軽になった国は、自衛隊派兵をはじめ軍事・外交でグローバル資本の海外活動の支援に専念できるというわけだ。

国家改造をリード

 橋下大阪府知事は、このような国家改造を突出して進めようとしている。

 まず就任直後に、「大阪府は破産状態だ。夕張市と同じだ」と府民を脅し、府庁内に財政再建プロジェクトチームを立ち上げた。プロジェクトチームに対して 「ゼロベースのすべての事業の見直し」をさせ、人件費削減(08年度345億円、一般職12〜4%賃下げ [後に11・5〜3・5%に修正] 、09年度350人非常勤職員雇い止め解雇など)を打ち出す。「財政再建のために府民の皆さんも少しずつ我慢を」と「自分の感覚」を頼りに事務事業を片っ ぱしから切り縮めた。

 その上で初めて自分のビジョンとして「大阪維新プログラム」の中に道州制を明記。解体すべき府独自の事業や人件費などは際限なく切り縮める一方、道州制 に向けて必要な道路・都市計画・関西空港関連事業などの大規模プロジェクトを手付かずのまま温存している。

 このような詐欺師まがいの強権的手法が、地方自治の現場で許されていいわけがない。

 グローバル資本のための自治体解体・国家改造をリードする「大阪維新プログラム」は、ひとり大阪府だけの問題ではない。
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