2008年09月12日発行
1050号
【グルジア紛争 米国とグルジアが起こした戦争 石油確保とロシア包囲へ】
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グルジア共和国の南オセチア自治州をめぐる「武力紛争」について、日本のマスメディアはこぞって「ロシアの侵略」を非難している。だが、これはグルジア
と米国が始めた戦争だ。
停戦協定破ったグルジア
最初に攻撃を仕掛けたのは、グルジアだ。8月7日グルジアは、停戦協定を破って南オセチアの州都ツヒンバリに侵攻し、平和維持部隊として駐留していたロ
シア軍にも攻撃を加えた。ツヒンバリの住宅密集地にミサイル爆撃を行ない1400人もの住民を虐殺したグルジア軍の行為は、国際法違反の許し難い戦争犯罪
である。
もともと南オセチアにはグルジア人とは違うオセット人が多数住んでおり、ソビエト連邦が崩壊していく過程での民族主義の高まりの中で、同じオセット人の
住む北オセチア共和国(現在はロシアに属している)との統合を求める動きが表面化する。そして91年4月にグルジアが公用語をグルジア語だけに限定しよう
としたことから、南オセチアは独立を宣言しグルジアとの間で戦闘が勃発。翌年停戦が実現し、ロシアの平和維持部隊が南オセチアに駐留するようになる。それ
以降、南オセチアは国際法上はグルジア領ではあるが、グルジア政府の支配が及ばない地域となっていた。
グルジアの焦りを利用
なぜこの時期に、グルジアは南オセチアに侵攻したのか。
そこには、グルジアの意図とそれを利用しようとする米ブッシュ政権の思惑がある。
今年2月にセルビアのコソボ自治州が一方的に独立を宣言し、欧米諸国はすぐにコソボを独立国として承認した。この「コソボ独立」が分離独立を求める南オ
セチアやアプハジアを鼓舞することは確実だ。グルジアのサーカシビリ政権としては、独立を阻止する必要があった。
サーカシビリは、米国のネオコン(新保守主義)グループやCIA(中央情報局)の全面的な支援を受けて政権を獲得した親米政権だ。その親米ぶりは、人口
約470万人という小国であるにもかかわらず、イラクに米英に次ぐ2千人の大部隊を派遣していることからも知られる。
ブッシュ政権には別の狙いがあった。同政権はここ数年、石油資源をめぐってロシアとの確執を強めており、東欧諸国へのMD(ミサイル防衛)システム配備
など"ロシア包囲網"づくりを進めてきた。今年の7月には、米陸軍・海兵隊がグルジア軍との合同演習を行なっている。
ブッシュ政権にとっては、南オセチアそのものはどうでもいい。グルジアはアゼルバイジャンの石油を地中海に運ぶパイプラインが通る重要拠点だ。グルジア
とロシアの関係が悪化すれば、グルジアはいっそう米国に依存せざるを得ない。またロシア軍がグルジア領内に入ってくれば、「侵略者ロシア」を大々的に宣伝
することで国内の反戦世論に対抗して緊張をかきたてることができるだけでなく、ロシア周辺へのMDシステム配備に有利な状況を作り出すことができる。
ブッシュ政権は、サーカシビリ政権の焦りを利用し、南オセチア侵攻をそそのかしたのだ。
ロシアの侵攻も不当
グルジア軍から先に攻撃されたとはいえ、ロシア軍はグルジア領内に侵攻し、首都トビリシの居住地を空爆した。明らかに不当な軍事侵攻であり、非難されて
当然だ。さらにロシアは南オセチアとアブハジアの独立を承認すると発表したが、国内のチェチェン独立には反対しており何の説得力もない。ロシアはグルジア
のNATO(北大西洋条約機構)加盟の動きに危機感を持っており、石油パイプライン問題もからんで、この際グルジアに圧力をかけたいとの意向が働いたに違
いない。
今回の紛争で一番得をしたのは米国だ。メディアを使って「侵略者ロシア」を大々的に宣伝し、これまで難航していたポーランドとのMDシステム配備交渉を
合意に持ち込むことに成功したのだ(8月14日)。これは、ロシアのグルジア侵攻を脅威に感じたポーランドがMD受け入れを急いだのが背景とされる。
* * *
いま必要なのは、完全な停戦を実現し、南オセチアとアブハジア、グルジア住民の安全を確保することだ。住民の権利の尊重、諸民族の共存・共生を基本に、
当事者・関係国間の話し合いで民主的平和的解決が図られなければならない。
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