2008年10月10日発行 1054号

【ドキュメンタリー映画『フツーの仕事がしたい』/立ち上がるフツーの運転手】


 長時間労働を強いられる労働現場で一人の青年労働者がユニオンに入り、闘いに立ち上がる過程を描いたドキュメンタリー映画『フツーの仕事がしたい』が、 10月4日から東京・横浜で劇場公開される。その先行上映会が9月28日、都内であり、上映後、監督の土屋トカチさんと作家の雨宮処凜さんによるトークも 行われた。主催は、労働問題を考える若者のためのNPO法人POSSE(ポッセ)。

 映画の主人公、皆倉信和さん(36歳)は、バラセメント(粉セメント)を輸送する運転手。高校卒業後、運転関係の仕事を転々とし、現在の仕事に就いた。 映画は、輸送車のハンドルを握る皆倉さんの姿で始まる。勤務先は都内の運輸会社(現在は廃業)で、大阪住友セメントの運送を請け負う会社フコックスからの 仕事をこなす孫請け会社だ。

 セメントはコンクリートの原料の1つで、建設現場では不可欠。建設現場が昼夜連続のフル稼働であれば、運ぶ運転手もフル稼働で働くことを強いられる。 2005年3月、バラセメントの輸送車が交通事故を起こす。運転手は、「休みを取ったら首だ」と会社から脅かされ、事故当時、40度もの熱があった。

 皆倉さんの会社も、運んだセメント量が賃金にはね返るオール歩合制を運転手に強い、雇用・社会保険も備えなかった。1か月の最長労働時間が552時間に も及んだ時もあった。1日の自由な時間は6時間未満。この間に、通勤し、食事をし、睡眠も取らねばならない。いかに殺人的な労働時間であるかがわかる。

 皆倉さんは話す。「これだけ働き、給料は約30万。まる1か月ほとんど寝なかったときもある。この業界は、これが当たり前だと思っていた。周りも同じ仕 事をしている。夜中から走り回るのが普通なんだと」

 しかし、仕事を初めてから半年、「職場は、がまんのできない状況になった」。そんな時に手にしたのが「誰でも、一人でも、どんな職業でも加入できます」 と書かれたユニオンの一枚のビラだ。無期限ストで闘うセメント会社の前を通った時に受け取った。

行動したから勝てた

 2006年3月、皆倉さんは会社にユニオン加入を通告する。以降、会社による組合脱退や退職強要などの圧力を受けながらも、ユニオンに支えられながらの 闘いを続ける。

 ユニオン加入後に、母親が亡くなるが、葬儀の場にも会社の労務屋が押しかけ、組合脱退を迫る。暴力をふるう労務屋の姿をとらえた映像は、ドキュメンタ リーならではの迫力だ。

 同年7月、皆倉さんは病に倒れ、緊急手術。入院生活を余儀なくされる。闘いはユニオンによって続けられ、親会社のフコックス、そして大阪住友セメントへ と行動と交渉が展開される。

 こうした闘いを通して昨年4月、皆倉さんはフコックスによって設立された新会社での就労を手にする。映像の最後も皆倉さんがハンドルを握る姿だが、最初 と違うのは新会社の職場ということ。そして、話す。「今は保険もあり、残業代もある。フツーの仕事になった。逃げていれば、こういう会社もできなかった。 組合に入って行動しないと成果を得られない」

現代の『蟹工船』

 上映後のトークでは、この映画がプロレタリア文学作品『蟹工船』と重なり合うとの見方に触れながら、土屋監督は「『蟹工船』ではひどい労働条件がクロー ズアップされがちだが、労働者は最後に立ち上がる。弾圧はされるが、もう一度立ち上がろうというところで終わる。そこがクローズアップされないことに不満 があり、その思い出でこの映画を撮った」と話す。

 「『蟹工船』を読んだ人たちのエッセイ集に『ふつうの仕事がしたい』というフレーズがあり、びっくりした。ネットカフェに寝泊まりしている人からの投稿 だった。こういう人に見てほしい」

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・東京 ポレポレ東中野(10月4日より)
・横浜 シネマジャック&ベティ(10月11日より)

 全国順次公開。詳しくは公式ブログ(http://nomalabor.exblog.jp/) まで。
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