2008年11月07日発行 1058号

【労働者派遣法改悪狙う厚労省案 「日雇い派遣禁止」を偽装し派遣拡大 貧困撲滅は派遣法廃止から】

 舛添 要一厚生労働大臣は10月24日、労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)に「労働者派遣法改正案要綱」を提示した。しかし、この「改正案」は派遣労働 が生み出してきた害悪を何ら解消しないばかりか、グローバル資本の意を受けて制度をいっそう改悪し派遣労働を拡大する。労働者派遣法を廃止しなければ、貧 困化の根本的打開はできない。

派遣こそ貧困の元凶

 昨年来、ワーキングプアやネットカフェ難民の温床である日雇い派遣が大きな社会問題となっている。また、派遣労働を長期にわたって継続する労働者の増加 と貧困化、禁止業務派遣や二重派遣、偽装請負など違法行為の横行などが、メディアでも次々と取り上げられた。政府・厚労省も無視できなくなり、「改正案」 は「これらの事態に対処していくことが必要」(労働政策審議会建議)として出された。だが、それは派遣労働そのものにメスを入れるものではない。

 これまでの労働者派遣法の「改正」とは、現状追認によって違法派遣を合法化することに終始し、規制緩和の名で派遣労働を拡大するものだった。今回も、社 会問題化した「日雇い派遣の原則禁止」を目玉商品にしながら、「常用型」派遣労働をむしろ一挙に拡大しようとしている。

  登録も常用も人身売買

 派遣労働は、「登録型派遣」と「常用型派遣」の大きく2種類に分けられる。

 「登録型派遣」の場合は、まず派遣元(派遣会社)に登録する。次に、派遣先が見つかって派遣就労することになったときに、派遣元と期間を定めた労働契約 (有期雇用契約)を締結し、派遣先企業に派遣される。派遣先への派遣期間が派遣元との労働契約の期間になり、派遣が終われば、派遣元との労働契約も終了 し、登録状態に戻ることになる。派遣元への登録だけでは、賃金や雇用の保障はない。

 日雇い派遣はこの登録型派遣の典型だ。雇用期間=派遣期間は1日単位で断続し、社会保険や年次有給休暇など継続雇用を前提にした権利も全く保障されず、 貧困の温床となっていた。

 一方「常用型派遣」は、派遣元(派遣会社)と期間を定めない労働契約(雇用契約)を結んで雇用されるもので、この点では一般の労働者と同様である。派遣 先が見つかれば、一定の派遣期間ごとにあちこちの派遣先に派遣されるが、派遣期間が終了しても派遣元との労働契約は続く。

 「常用型派遣」は一見雇用が安定しているかに見えるが、現実はそうではなく、非常にトラブルが多い。

 派遣契約では、指揮命令をする企業と雇用関係のある企業が異なる、つまり雇用者と使用者が分離しているため、一般の労働契約には見られない問題が生じ る。「常用型派遣」であっても、派遣先の経営者は、人件費削減のために派遣労働を導入し、いつでも使い捨てできる労働者と認識している。労働条件の劣悪さ は前提であり、正社員からの差別も絶えない。

 「登録型」「常用型」を問わず派遣労働は、派遣元と派遣先が交わす労働者派遣契約(商取引)によって雇用や労働条件が決められてしまうため、競争原理で どんどん買いたたかれてしまう。

 労働者派遣法をどう手直ししても、モノ同様に人間を売買するシステムそのものをやめさせなければ、賃金・労働条件の悪化、社会の貧困化をなくすことはで きない。

直接雇用拒否を狙う

 今回の改正案にかけた資本の側の最大の狙いは、一定期間継続して働いた派遣社員に対する派遣先の「直接雇用申し入れ義務」を撤廃するところにある。

 キヤノンや松下などグローバル企業が違法承知の偽装請負を行ってきたのは、この直接雇用(=正社員化)義務からのがれるためだった。「直接雇用申し入れ 義務の撤廃」とは、正規労働者をいっさい雇わず、派遣労働者を低賃金で長い年月働かせるという総派遣社員化に道を開くものだ。それは、派遣労働者を常用代 替(正社員の穴埋め)として使うことを禁止してきた法のたてまえすら根本から覆すことになる。

 現在もグループ企業内に派遣会社を作り、その派遣社員をリストラの穴埋めに使うことが横行している。これは常用代替の典型で本来禁止すべきで、現行法に おいても「専(もっぱ)ら派遣」(特定の会社にのみ派遣する)として禁止されている行為だ。しかし、罰則がなく事実上野放しだった。改正案は、この点につ いてもグループ企業内の派遣を80%以内に抑えれば合法として温存しようとしている。

 また、改正案はこれまで禁止されてきた「特定行為」(派遣先が事前に試験や面接して採用の可否を決定すること)を解禁している。今も広範囲に違法行為が 行われているが、事前面接を利用した買いたたきと差別を合法化するものである。

 グローバル資本にとってより優秀な労働力を格安で調達できるシステムが生まれ、しかも自らの雇用責任を問われることなく、いつでも派遣契約を解消できる のである。

 改正案は、その目玉商品である日雇い派遣についても特定業務で可能にしており、原則禁止と言いながら抜け道を用意している。また諸悪の根源である「登録 型派遣」も、禁止を求める声を拒み引き続き温存している。

 この改正案は、日雇い派遣問題を契機に派遣会社の整備を行い、労働者をよりスマートに総派遣化していく道筋を作るものである。

【「労働者派遣法改正案要綱」の骨子】

◆常用型派遣労働者の特定を目的とする行為の解禁

◆登録型派遣労働者への就業機会、常用型への転換訓練などの努力義務

◆派遣労働者の職務の内容・成果、能力、経験等を勘案した賃金の決定(努力義務)

◆常用型派遣に対する派遣先の直接雇用申込義務の撤廃

◆関係派遣先(グループ企業)への派遣は80%以下の制限で解禁

◆日々または30日以内の日雇い派遣は、政令で定める業務以外は禁止
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