2008年11月21日発行 1060号

【2008アメリカ大統領選挙 戦争と新自由主義への国民的ノー ブッシュ路線への批判がオバマへ】


 11月4日、米大統領選挙が行なわれ、民主党のバラク・オバマ候補がジョン・マケイン共和党候補を破り、米国史上初の黒人大統領が誕生することになっ た。民主党は8年ぶりに政権を奪い返し、同時に行なわれた上下両院選挙でも勝利を収めた。今回の大統領選挙で、米国民はブッシュ路線―戦争と新自由主義推 進路線―を明確に拒否したのである。

初の黒人大統領誕生

 オバマは51州・特別区のうち29州・特別区で勝ち(1州が未決着)、選挙人獲得数ではマケインに倍以上の大差を付けて当選した。

 推定投票者数は1億3660万人で、過去最高となった。

 どういう層がオバマを支持したのか。投票所での出口調査によると、ブッシュ大統領の政策運営に批判的な人は72%にのぼり、そのうち69%がオバマに投 票した。

 世帯収入が5万j(約500万円)未満の人のうち60%がオバマを支持。18歳〜29歳の層では66%がオバマに票を投じた。若い層、低所得層がオバマ を支持したことが明らかになっている。

 何が最も重要な争点かとの問いに「経済」と答えた有権者は62%で、うち6割近くがオバマに投票した。

 さらに「人種は重要な投票要素ではなかった」と答えた人は90%にのぼった。それだけ国民の危機感は強く、今のままではいけないという気持ちを誰もが共 有していたということだ。出口調査でも、8割近い人が「米国は間違っている方向に進んでいる」と答え、9割が「経済状態は悪い」と答えている。

 ブッシュによって耐えがたい状況となった米国を変えなければとする「変革」のうねりが、米国社会を分断する「人種の壁」を突き崩したといえる。


ブッシュの8年を拒否

 ブッシュ路線ノーの米国民の怒りの声こそ、オバマ勝利の原動力だ。戦争と新自由主義のブッシュ路線は完全に行き詰まっていた。

 イラク反戦が土台に

 「テロとの戦争」の象徴であったイラク戦争は、何十万人ものイラク民衆を殺し、何百万人もの負傷者や難民を生み、混乱と治安悪化をもたらしただけで、テ ロを根絶するどころかむしろ拡大させた。戦争の「大義名分」はことごとくウソであったことが明らかになり、侵略した米国側も9・11テロの犠牲者を上回る 4600人もの若い兵士が命を落とした。

 米国の反戦運動は地域の隅々にまで広がり、大統領候補を決める民主党・共和党の大会は、IVAW(戦争に反対するイラク帰還兵の会)をはじめとする反戦 運動に包囲された。ブッシュのイラク政策の誤りはもはや前提となり、いつ撤退するかが焦点になっている。

 米国最大の反戦団体UFPJ(平和と正義のための連合)は、「われわれの継続した活動が大衆の感情を戦争反対に転換させる上で主要な役割を演じたのであ り、その反戦感情がオバマの選挙運動が成功した土台を作る手助けとなった」(11/7オバマ当選に関する声明)と評価している。
 
 貧富の差拡大に怒り

 レーガン政権が始め、ブッシュ政権が加速した新自由主義路線は、貧富の差を拡大して金儲けのためなら何でもありとなり、米国社会に深刻なゆがみをもたら した。

 株主に最大の利益を還元できる企業こそが良い企業という株主至上主義の下で、地道にモノを作る企業よりも、ほかの企業を買収したりリストラを断行し労働 者の首を切る企業がもてはやされた。労働者を使い捨てにする不安定雇用が増え、多数のワーキングプアが生み出された。

 金融の規制緩和でさまざまな金融商品が開発され、マネーゲームを持続させるためにITバブルや住宅バブルが作り出され、住宅価格の上昇を前提に返済能力 のない人に融資した住宅ローン債権を小口化した金融商品(サブプライムローンの証券化)までが考案された。

 バブルのおかげで米国経済は好景気を持続したが、みんながその恩恵にあずかったわけではない。1%の富裕層が国全体の所得の20%を得る一方で、下層の 50%は所得の10%強を得るにすぎない。政府が決める「貧困ライン」(4人家族で年収約2万j=約200万円)に達しない人の数は3600万〜3700 万人にのぼる。高額化する医療費のせいで、年間200万世帯が破産している。医療保険未加入者は2007年時点で4700万人だが、年々増え続けている。

 貧富の差は大きくなり、貧困世帯は増加した。

 金融危機問題が後押し

 こうした閉塞状況の中、米国民はブッシュ路線からの転換を求めた。ブッシュの支持率は今や22%という低水準だ。

 そこに起こった証券大手リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する、かつてない金融危機がオバマの勝利を後押しした。

 「市場に任せればすべてうまくいく」との立場をとっていたブッシュ政権は、7千億j(約70兆円)の公的資金を投入せざるを得なくなった。金融危機は今 までの新自由主義路線、金融主導型経済の破綻を示し、米国民はその推進者であったブッシュ共和党にノーの審判を下したのだ。

オバマが直面する危機

 熱狂的な勝利を手にしたオバマは、新大統領として米国と世界の危機的事態に直面することになる。

 米国経済は個人消費によって牽引されてきた。ここ数年は住宅バブルに乗っかる形で個人消費も伸びていた。その住宅バブルが破綻し、ローンが返済できずに 家を差し押さえられた世帯は100万世帯に達する見込みだ(昨年は40万世帯)。今後新たに430万世帯が家を失うとの予測もある。個人消費は冷え込み、 7〜9月期の実質成長率は0・3%減のマイナス成長に転じた。

 金融機関への公的資金投入によって、財政赤字の拡大は避けられない。08会計年度(07年10月〜08年9月)の財政赤字は過去最大の4550億j(約 45兆5000億円)に拡大。莫大なイラク戦費と軍事費ともあいまって、09年度の赤字は1兆j(100兆円)を上回ると見られている。

 イラクからの早期撤退を掲げたオバマだが、アフガニスタンへは増派し介入を強めると公約している。しかし武力でタリバンは倒すことはできず、カルザイ政 権はタリバンの政権参加を模索し始めている。米軍の越境攻撃で米・パキスタン関係は悪化し、多国籍軍の無差別攻撃によって民間人犠牲者が急増する中、カル ザイ政権も空爆を批判し始めている。カルザイ大統領が「米国の新大統領にまず求めたいのは、空爆による住民の犠牲を終わらせることだ」と述べたのは象徴的 だ。

 米国は、ブッシュの戦争と新自由主義路線によって、かつてない危機を迎えている。貧困層の支持を受けたとはいえ、グローバル資本の代弁者である民主党オ バマに、どこまでグローバル資本の勝手な行動を規制させ、労働者の雇用と生活を保障させることができるのか。労働者・市民にとっては、根本的な政策転換を 迫っていくチャンスである。その運動の力にこそ米国の未来がかかっている。
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