2008年11月21日発行 1060号

【ミリタリーウォッチング 空自・前トップの侵略賛美論文 派兵推進で増長する制服組】


 11月1日、航空自衛隊のトップ田母神(たもがみ)俊雄幕僚長更迭のニュースが全国に流れた。

 民間企業アパグループ主催の「真の近現代史観」と題する懸賞論文(審査委員長渡部昇一)に、田母神は「我が国が侵略国家だったというのはぬれぎぬ」と主 張する論文を応募し、最優秀賞に選ばれていた。この内容が「政府見解と明らかに異なり、公にすることは空幕長として不適切」というのが更迭の理由である。 が、問題の根はもっと深い。

侵略正当化する田母神

 田母神の主張は、「我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者」、旧「満州」、朝鮮半島への日本の植民地支配で「現地の人々は圧政から解放 され生活水準も格段に向上した」として、侵略と植民地支配を正当化する。現代の安全保障についても「集団的自衛権も行使できない。武器使用も制限が多く、 攻撃的兵器の保有も禁止されている。(東京裁判の)マインドコントロールから解放されない限り我が国を自らの力で守る体制が完成しない」としている。

 一方「政府見解」とは95年、「国策を誤り、植民地支配と侵略によって、アジア諸国の人々に多大な損害と苦痛を与えた」ことを認め、「痛切な反省とおわ びの気持ち」を表明した村山談話だ。十分なものではないが、以降の自民党政権とて否定はできない見解である。また憲法違反である集団的自衛権の行使は、日 本政府も認めていない。

 今年4月、航空自衛隊のイラク空輸活動を違憲とした名古屋高裁判決に対して、「そんなの関係ねぇ」とそれこそ暴言を吐いた田母神。今回の件でも「このぐ らいのことが言えないようでは自由と民主主義の国ではない。北朝鮮と一緒だ」とまくしたてている。

 法的にも、自衛隊員の「服務の宣誓(日本国憲法及び法令を遵守)」すら公然と踏みにじりながら、本人は11月3日付で定年退職、6千万の退職金を受け取 る。政府は当然の「懲戒免職」処分すら行なわなかった。

組織的政治行動だ

 今回の問題を、単に右翼的な自衛隊幹部の暴言と終末期内閣の国会乗り切り策とだけとらえると、ことの本質を見誤る。

 90年代に始まる日米安保の再定義から米軍再編に歩調を合わせた自衛隊海外派兵の本格化、とりわけ実際の戦地イラクへの派兵を背景に、自衛隊制服組の政 治的言動は、かつてとは比べものにならないくらい増長拡大かつ組織化している。

 04年4月、防衛庁長官・内局・統幕議長等トップレベルの会議で、古庄幸一海幕長は「統合運用体制への移行に際しての長官補佐体制」とする文書を提出し て日本の「文民統制」とされてきた参事官制度の廃止を迫った。また同年7月、自民党の憲法改正起草委員会に陸上自衛隊の2等陸佐が国防軍創設を含む憲法草 案を提出し、自民党の憲法改正草案大綱の原案とされた。この動きは「法によるクーデター」とも言われた。

 そして今回の件では、懸賞論文応募全235人のうち78人が航空自衛官であり、事前に航空幕僚監部教育課が全国の隊員に応募を呼びかけていたことも判明 した。政治的行為に厳しい制限があるはずの制服組が、極めて組織的な政治的対応を行っていた。空自トップに登りつめた田母神は、以前から隊内でこのような 内容を煽っていたのである。

 現実の武装集団・自衛隊24万。ここに市民の側がどう規制をかけていくのかが今問われている。

藤田なぎ
平和と生活をむすぶ会
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS