2008年11月21日発行 1060号

【麻生「経済対策」のまやかし/またしても大企業・富裕層を優遇/貧困層をより貧しくする国】


 麻生政権が打ち出した「追加経済対策」の評判がすこぶる悪い。「給付金」と称したわずかばかりの税還付をえさに、消費税増税を狙う厚かましい政策が支持 されるわけがない。ただでさえ、グローバル企業や富裕層を優遇する税制の下で、労働者・市民は重い負担を強いられている。こうした新自由主義路線こそ転換 すべきなのだ。


 追加経済対策の目玉商品は、総額2兆円規模という定額「給付金」である。夫婦子ども2人の家族で6万4千円になるという。ただし、麻生首相は3年後の消 費税引き上げを明言しており、家計への負担は明らかに増える。

 世帯収入が500万円の家庭の場合、平均的な年間消費支出は約220万円だから、現在の消費税負担は約11万円。消費税率が8%に引き上げられると、年 間の負担額は6万6千円増えて17万6千円になる。一時的な給付金など1年で消えてしまう計算だ。

 ではなぜ、総選挙の前だというのに、消費税引き上げという負担増を麻生は口にしたのか。それはグローバル企業の強い要求があったからである(たとえば、 日本経団連が10月2日に発表した「税・財政・社会保障制度の一体改革に関する提言」)。

 グローバル企業は国際競争力を維持するために、法人税引き下げなど一層の税負担軽減を求めている。これを実行するためには、減税分をカバーする消費税の 増税が欠かせない、というわけだ。

カネ持ち減税の歴史

 まったく厚かましい話である。すでにグローバル企業や富裕層は、新自由主義路線の下で実行された様々な優遇税制の恩恵を十分すぎるほど受けてきた。逆 に、中・低所得者層はカネ持ち減税の穴埋めを強いられ、重くなる一方の負担にあえいでいる。

 具体的にみてみよう。企業が負担する法人税は43・3%(87年3月まで)から段階的に引き下げられ、99年4月以降は30%になった。個人所得税も最 高税率が引き下げられ、1986年に70%だったものが一時は37%にまで下がった(現在は40%)。ほかにも資産所得の優遇措置拡大や贈与税の軽減と いったカネ持ち減税が実行されていった。

 その結果、国税収入に占める所得税・法人税の割合は大幅に低下した。所得税と法人税の収入は80年代を通して国税収入(一般会計)の7割以上を占めてい たが、06年度には59%にまで低下した。一方、消費税が占める割合は年々増加し、導入当初7・7%だったものが今や2割以上になっている(表1)。



 高所得者も低所得者も同じ税率の消費税は、低所得者ほど負担の度合いが大きい逆進的な性格を持つ。また、消費税として課税される部分が大きくなれば、税 制の持つ所得再配分機能は低下する。
 大企業・富裕層優遇のツケは、大衆増税という形で労働者・市民に回されたのだ。

歪んだ所得再配分

 そもそも、日本は税による所得再配分効果が諸外国に比べて小さいという特徴があるのだが、社会保障制度における所得再配分も機能していない。日本の社会 保障給付費は年金と医療に大半が費やされており、勤労世代への再配分はほとんどない。このため、低所得者層の勤労世代は、社会保障制度のせいで生活がます ます苦しくなるという事態に直面している。

 子どもの貧困率(社会全体の子どもの中で何%の子どもが貧困状態で暮らしているのかをみた割合)を事例にみてみよう。一般的に、生活困窮者への社会保障 給付(生活保護や失業手当など)によって、社会全体の貧困率は減少するはずである。所得の再配分とはそういうものだ。

 ところが、日本の場合、政府による所得再配分の結果、子どもの貧困率は逆に上昇する(12・9%→14・3%/2000年)。受け取る給付よりも、税金 や社会保険料を支払う負担の方が格段に重いから、こうした逆転現象が起きてしまうのだ。

 いわゆる先進国の中で、これほどの「やらずぶったくり」が行われている国は日本以外に存在しない(表2)。


実態伝えぬメディア

 麻生政権が今回打ち出した追加経済対策は、これまで見てきた新自由主義政策の延長線上にある。世界金融恐慌を乗り切るために、労働者・市民にさらなる負 担を強いることで、グローバル企業・富裕層を救済しようとする政策である(3面参照)。

 こうした麻生「経済対策」の本質にマスメディアは少しも触れようとしない。それどころか、票欲しさに走る自民党・公明党によって新自由主義政策が停滞し ないように、両党を執拗な「バラまき」批判でけん制する役割をはたしている。

 朝日新聞などは「消費税アップ−麻生首相は本気を示せ」(■10/25)という社説を掲げ、麻生の背中を押す始末。結局、この国のマスメディアはカネ持 ちクラブの一員でしかない、ということだろう。「消費税引き上げやむなし」へと世論を誘導するマスメディアの論調にごまかされてはならない。      (M)
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