2008年11月28日発行 1061号

【減益口実に「派遣切り」 派遣根絶が貧困撲滅の突破口】


 金融恐慌を引き金に、グローバル企業は次々と「販売不振」「業績見通しの下方修正」を発表し、「派遣切り」など非正規労働者の首切りを加速している。だ が、この「下方修正」とは、史上最高の利益を繰り返し更新してきた中での対前年度比の減益であり、相変わらず膨大な利益を上げている。派遣労働そのものを 撤廃し、非正規雇用をなくすことでしか、貧困撲滅はできない。

ぼろもうけ続ける大企業

 金融恐慌を口実にした不安定雇用労働者の切り捨てが加速している。

 トヨタ自動車は、09年3月までに期間工5800人の人員削減を予定している。08年3月時点で8800人いた期間工の実に65%の職を奪うこととなる。

 日産自動車も派遣社員1千人の契約を解除する。キヤノンは、コピー機部品を製造するキヤノンプレシジョン(青森県)で、すでに派遣労働者など非正規社員240人を契約解除した。

 「派遣切り」の波は、中小企業にも広がっている。

 全国のハローワークの聞き取り調査(10月)によると、景況悪化への対応としての派遣労働者や契約社員の再契約停止は23・4%となった。輸出型製造業では43・6%に、製造業全体でも29・4%に上る。

 非正規雇用労働者は1732万人(07年)。そのうちの58%、1006万人が雇用保険にも入っていない。契約を解除されれば、たちまち生活基盤を失う。

  大企業が「派遣切り」

 東証1部上場企業の経常利益は、通期で対前年度比25%減が予想されている(11/7新光総合研究所まとめ)。

 しかしこの経常利益額は05年3月期の水準を維持しており、過去最高益の8割以上を確保する企業は上場企業全体の3分の1を占める(11/11日経)。 05年は、金融・保険業を除いても合計51兆円もの経常利益を上げた年。資本金10億円以上の大企業5千社は29兆円の経常利益を上げていた。

 トヨタは11月7日、業績見通しを大幅に下方修正。営業利益を7割減とした。それでも純利益は5500億円だ。

 日本経団連会長出身会社のキヤノンも対前年度比の純利益を23%減と見込んでいるが、それでも3750億円の純利益だ。

 パナソニック(旧松下)は、1285億円と過去最高の純利益(第2四半期)を記録し、通期の純利益を3100億円と見込む。稼ぎ頭は、偽装請負を断罪さ れた松下PDP(現パナソニックPDP)が属するデジタルAVCネットワーク部門だ。営業利益の40%を稼ぎ出している。

 グローバル企業は「減益」と言いつつ、単年度でも十分にぼろもうけしているのだ。

 その上に、02年以降連続した「いざなぎ越え」の景気拡大で溜め込んできた内部留保がある。

 資本金10億円以上の大企業では内部留保は、06年時点で200兆円を越えている。国家予算の3年分にも上る金額だ。トヨタだけでも13兆円もの内部留保を溜め込んでいる。

 これに対し、労働者の平均賃金は、97年の470万円から06年の430万円へと減少を続けてきた。年収200万円以下の給与所得者は、2年連続1千万人を越え過去最多となっている(07年度)。

派遣労働2009年問題

 企業が「派遣切り」を急ぐのは、金融恐慌の下でも不安定雇用を維持することで、一層の利潤追求をもくろんでいるからだ。

 トヨタ、キヤノン、パナソニックをはじめとするグローバル資本は、派遣労働における「2009年問題」を抱えている。

 これらの企業は、06年〜07年に相次いで偽装請負が明らかになり、対応を迫られた。

 労働者派遣法は、製造業では原則1年、労働者の過半数を組織する労働組合の合意があった場合は3年間、派遣労働者を使用することができるとしている。こ の期間を過ぎると、派遣労働者を使用する企業は、派遣労働者に対して直接雇用を申し出なければならない。これを嫌った企業が、業務請負に偽装して派遣労働 者を使用してきた。

 偽装請負が違法として追及されたのが06年〜07年であり、各企業はこれら派遣労働者を一時期期間工などの直接雇用に切り替えた後、再度派遣社員に置き かえた。その派遣労働者が09年には3年の派遣期限を迎え、派遣先企業には直接雇用の申し出義務が再度発生する。これが「2009年問題」だ。企業は、早 めに派遣契約を打ち切り、政府が提出した労働者派遣法改悪案の成立を待っているのだ。

派遣拡大する「改正案」

 11月4日、政府は「労働者派遣法改正案」を衆議院に提出した。

 この「改正案」は、「日雇い派遣の原則禁止」を目玉商品とする。しかし、あくまで「政令で定める業務以外」の禁止であり、日雇い派遣を温存している。

 そればかりか、常用型派遣労働者(派遣会社と期間の定めのない雇用契約を結ぶ派遣労働者)への、派遣先企業による直接雇用申し込み義務を撤廃する。企業からすれば、正規労働者を雇わず、したい放題に派遣社員を長期間使うことが可能となる。

 また、グループ企業内への派遣は80%以内であれば可能とすることも盛り込まれている。これはグループ企業内に派遣会社を作り、その派遣社員を正社員の リストラの穴埋めに使おうというもの。現在も法律上は禁止されているものの、罰則がなく事実上野放しとなっている。これを解禁し、合法化しようというの だ。

 必要なのは派遣撤廃

 職業安定法は、人身売買や奴隷労働、手配師によるピンはねを許さず直接雇用を原則としている。労働者派遣法は、職業安定法の労働者供給事業禁止規定の例外として出発した。当初は、専門職など一部の職種のみに派遣労働を認めていたが、1999年に原則自由化した。

 厚生労働省は、たて前としては「労働者派遣は臨時的・一時的な労働力の受給の仕組み」としているものの、違反については派遣先への「是正指導及び助言」 にとどまっている。実効性のある規制になっておらず、まったくの野放し状態だ。モノ同様に人間を商品として売買する派遣システムをそのままに「原則自由化 以前に戻す」などの小手先の制度変更では、労働者の買い叩きはとまらない。

 金融危機を口実とした「派遣切り」を許さず直接雇用を求めるとともに、労働者派遣法を廃止し非正規雇用を根絶することでしか貧困は撲滅できない。
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