2008年12月19日発行 1064号

【裁判員制度は廃止に 人権無視の刑事司法は温存 国民に「裁き」を強要】


 09年5月、裁判員制度が始まろうとしている。裁判員候補者には、その通知がされた。

 裁判員制度は、有権者から選ばれた一般市民6人が裁判に参加し、有罪・無罪と量刑を決めるというもの。判決は、職業裁判官を含めた評議で多数決により決 められる。対象となるのは、殺人・強盗致死傷など「重大事件」と言われる刑事事件だ。裁判員には、出頭が義務付けられて守秘義務が課せられ、違反すれば罰 せられる。

 国民的論議も合意もなく導入されたこの制度は、公正な裁判を保障しないばかりか、被告人をはじめ人々の人権を侵害する。実施を中止し、廃止すべきものである。

99・9%有罪

 裁判員制度は、01年6月の「司法制度改革審議会意見書」により、導入が提言された。意見書は裁判員制度の導入の意義として、「裁判内容に国民の健全な社会常識がより反映され…司法はより強固な国民的基盤を得ることができるようになる」としている。

 では、現在の司法をめぐる状況はどうなっているのか。

 日本の刑事裁判の有罪率(検察が起訴して有罪となる率)は99・9%。これを支えるのは、3週間に及ぶ長期拘留と、その間、連日十数時間にわたる取り調 べによる自白強要だ。また、別件逮捕や違法な証拠収集など、違法捜査は日常的に行われている。検察は自らに有利な証拠しか開示せず、これらの証拠と自白を 鵜呑みにした裁判は、多くの誤判、冤罪を生んできた。刑事裁判は本来、「疑わしきは被告人の有利に」と無罪の推定で始まるべきものだが、現実には「推定有 罪」だ。

避けられぬ「推定有罪」

 裁判員が参加する事件は「重大事件」であり、当然、社会的注目度が高い。

 秋田連続児童殺害事件などの例をみるまでもなく、重大事件はマスメディアが報道合戦を演じる。連日、警察の公式会見・リーク情報が垂れ流され、被疑者の 日常生活から生育歴まで次々と暴かれて、「事件につながる異常さ」が強調される。被疑者には反論の手段もない。視聴者・読者に「被疑者=極悪非道の犯罪 者」が刷り込まれ、被害者遺族への同情を利用して加害者への憎悪がかき立てられる。

 被告人弁護士が無罪や情状酌量を主張しようものなら、たちまち非難の的となる。

 光市母子殺害事件では、バラエティ番組で橋下徹弁護士(現大阪府知事)が弁護団への懲戒請求を呼びかけた。これに応えるサイトも立てられ、2500件もの懲戒請求が弁護士会に殺到した。

 後に民事裁判で「刑事弁護人は被告の基本的人権の擁護に努めなければならず、橋下弁護士は、弁護士の使命・職責を理解していない」と厳しく指弾された。 被告の防御権の保障という刑事事件で最も大切なことすら理解しないタレント弁護士とメディア。その扇動に乗せられる風潮が「国民の健全な社会常識」の名で 法廷に持ち込まれるのだ。

 最近では、被告の刑事責任能力の有無を争った裁判で、弁護人側のみならず検察側の医師の鑑定ですら「刑事責任能力なし」を結論づけたにも関わらず、あえ て鑑定意見を採用せず、裁判所が有罪を言いわたす事件まで出ている。まして、予断を排除することが容易でない裁判員が評議に加われば、「推定有罪」は避け られない。

民意は支持せず

 司法制度改革審議会意見書は「国家への過度の依存体質の脱却、公共意識の醸成が国民に求められている」とし、「広く一般市民が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、裁判内容に主体的、実質的に関与する新たな制度」と裁判員制度を位置づける。

 つまり、「人を裁きたくない」と考えている人でもその思想信条を無視して裁判員になることを強制し、人を処罰させることで「公共意識・責任」を強要するのである。

 その一方で、警察・検察の取り調べのビデオ記録など、被告の防御権を保障する制度の導入は見送っている。現行刑事裁判に最も欠けている公正な裁判を保障するための被告人の人権擁護≠ノつながる制度改革は、ほとんど検討もされていない。

 裁判員制度は、有罪率99・9%を支える国家権力の違法行為と、これを追認する有罪判決を出す裁判に、罰則付きで国民を強制動員し追認させる制度だ。国 民が望みもせず(各世論調査でも7〜8割が消極意見)、その要求とはかけ離れた問答無用の制度導入に、反対運動も広がり始めている。
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