2009年07月24日発行 1093号

【橋下「地方分権」の正体/地方を滅ぼす「究極の構造改革」/グローバル資本のための道州制】

 衆議院選挙が近づく中、大阪府の橋下徹知事をはじめとする自治体首長の動向が注目を集めて いる。彼らは言う。今回の選挙は「地方分権を推進する大きなチャンス」だと。しかし、橋下らが唱える「地方分権」の正体は、道州制を実現することにほかな らない。グローバル資本が「究極の構造改革」と位置づける道州制。その狙いは何か。

タレント知事は踊る

 橋下徹・大阪府知事が各党のマニフェスト(政権公約)を値踏みすれば、東国原英夫・宮崎県知事が自民党に爆弾要求を突きつける−−タレント知事による派 手なパフォーマンスが新聞やテレビをにぎわしている。キーワードは「地方分権」だ。

 たとえば、橋下は中田宏・横浜市長らと「首長連合」を旗揚げし、きたる衆議院選挙では望ましい地方分権公約を掲げた政党を支持すると宣言した。「人気 者」の橋下を味方につけたい自民・民主両党は、競い合うように「我が党の分権構想」をアピール。かくして、「地方分権が総選挙の主要争点」というムードが 作られつつある。

 橋下の弁舌で「地方は奴隷のままでいいのか」「霞が関解体だ」と煽られると、「そのとおり。地方分権だ」という気にさせられる。だが、イメージの独り歩 きには注意しなければならない。問題はその中身である。

 大阪府知事として福祉・医療・教育の切り捨てを強行してきた橋下が、生活サービス向上のために地方への権限移譲を要求しているとは思えない。事実、橋下 は「日本の国の形を変えるというのが大目的。その手段として地方分権がある」と公言している。

 橋下の言う「地方分権」による国家改造とは、具体的には道州制導入のことを指している。道州制はグローバル資本が狙う新自由主義的な分権国家構想であ る。実際、日本経団連は衆院選のマニフェストに盛り込むべき政策の要望書を各政党に送っているのだが(7/6)、そこには「道州制推進基本法の制定」が重 点事項として掲げられている。

 経団連の御手洗冨士夫会長は、今年1月に橋下と会談した際、「知事は道州制を推進しており親近感を持っている。地方から国民運動として盛り上げないとい けない」と語っていた。こうしたグローバル資本の期待に応えるべく、橋下は動いているのである。

カネは大型開発に

 では、経団連が「究極の構造改革」と位置づける道州制とはいかなる構想なのか。経団連の提言によると、現在の47都道府県は廃止され、全国で10程度の 「道」と「州」に再編される。同時に、市区町村も1000程度に統廃合するとしている。
 この道州制の下では、国の役割は外交・軍事・司法などに限定され、内政の大半は国から権限や財源を委譲された道州が行う。そして、社会保障などの住民 サービスは、基礎自治体となる市町村が「その財政能力に応じて」実施することになっている。

 まさに「日本の国の形を変える」計画だが、どうしてそれがグローバル資本の要求なのか。御手洗は言う。「道州制とは、一言で言えば、行政の選択と集中で ある」「道州制が実現すれば、行政のスリム化は加速し、自立した経済圏が形成される」

 つまり、こういうことだ。道州制を導入し「官の役割をゼロベースで見直す」(自治体大リストラと行政サービスの縮小)ことにより、財政削減を断行する。 そうして浮いた財源をグローバル資本のための大規模開発や産業基盤の整備に「集中」投下することを狙っているのである。
 現行の地方自治体を解体し、グローバル資本への奉仕を地域間で競い合う行政機関へと再編する−−これが道州制構想の正体だ。新自由主義「改革」が推し進 めてきたグローバル資本本位の国家改造の完成形態といえよう。

福祉・教育は切り捨て

 道州制の下では、住民の生存に不可欠な社会保障の実施は、財源と権限を委譲された基礎自治体(市町村)が行うことになる。「自己責任」原則の下、中央政 府からの再配分機能(地方交付税)は廃止される。これは税収の乏しい地域にとって、社会福祉や教育・医療のための財源を失うことを意味する。

 財源を捻出できない基礎自治体は、社会保障の縮小・解体を迫られる。行政サービスのカットや自己負担化が住民の生活を直撃するということだ。また、道州 間でも財政状況の違いから地域格差が発生することは目に見えている。小泉「構造改革」で疲弊した地方は、道州制の導入で壊滅的な打撃を受けるだろう。

 それゆえ、道州制の実現は世論の猛反発を招かぬように、事の本質を覆い隠しながら進める必要がある。世論を盛り上げプラスのイメージ作りを担う宣伝マン が必要だ。その役割を買ってでたのが、橋下をはじめとする「首長連合」の面々というわけだ。

 それにしても、貧困と生活破壊の元凶である新自由主義「改革」の再加速を、「地方分権」を騙って画策するとは許し難い。「首長連合」なるペテン師の集団 にだまされてはならない。    (M)
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