2010年02月12日発行 1120号

【名護市長選とメディア 民意無視の官房長官発言を後押し 「それでも辺野古」の大合唱】

  米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の「移設」を最大の争点とした名護市長選挙は、「移設反対」を掲げた新人候補が「容認」派の現職を破って初当選した。と ころが、政府内からは同市辺野古への基地建設に固執する声が相次いでおり、マスメディアもそれを後押ししている。民主主義の否定というべき一連の論調を批 判する。

選挙結果を否定

 平野博文・内閣官房長官の普天間基地問題をめぐる発言が物議を醸している。

 名護市長選挙で「移設反対」を掲げた候補が当選すると、平野は「一つの民意としてあるのだろうが、そのことも斟酌(しんしゃく)してやらなきゃいけない という理由はない」と語った(1/25)。翌26日には「地元の合意が取れないと物事が進められないものなのか。法律的にやれる場合もある」と述べ、強制 収用や特別措置法による決着の可能性までほのめかした。

 民意を無視したこの発言に沖縄県民は一斉に反発。沖縄県選出の照屋寛徳衆院議員(社民党)が「けしからんどころか、ぶん殴ってやりたい。政治家としての 感覚を疑う」と非難したように、平野発言は数ある閣僚の暴言の中でも最悪の部類に入る。本来なら一発退場(更迭か辞任)になるべきところであろう。

 だが、鳩山首相は平野の言動を事実上放置しているし、閣内からは平野発言に同調する声も上がっている。「鳩山政権の正体見たり」というところだが、連中がこんな発言を平気でできるのは、同じ立場にあるマスメディアの後押しがあるからだ。

 この間、日本の主要メディアは「計画見直しは日米同盟の危機を招く」「辺野古案で決着せよ」というキャンペーンをくり広げてきた。その姿勢は名護市長選挙の結果を受けても変わらない。いや、よりヒステリックな論調になっている。

国と自治体は対等

 たとえば、読売新聞は市長選翌日(1/25)の社説で「それでも辺野古移設が最善だ」と言い切った。「移設先が見つからなければ、…普天間飛行場の深刻 な現状が、長期にわたり固定化される。日米関係も悪化し、危機的状況に陥るだろう」「そもそも、国の安全保障にかかわる問題を首長選挙の結果に委ねること 自体が誤りであり、国の責任で結論を出すべきだ」

 要するに、安全保障は国の専管事項なので鳩山政権は選挙結果にとらわれず辺野古案での決着を図れ、というわけだ。地方分権の趣旨をまったく理解していな い主張というほかない。住民の安全保障は自治体の重要な責務である。国と対等に協議する権限がある名護市が「新基地建設反対」の立場を鮮明にした以上、政 府がそれを無視して事を進めることはできないのだ。

 一方、朝日新聞は同じ日の社説で「『県外』探しを加速せよ」と説いている。「振興策より基地ノーを求める民意が多数派を占めた」という現実を踏まえ、辺野古強行は無理と判断しての提案だろう。

 ただし、「朝日」の結論は「広く国民の間で基地負担を分かち合うという難問に、答えを見いださなければならない」というものだ。“普天間の代替施設の提供は日本の責任”との立場は、「読売」と何ら変わりない。

「抑止力」は大ウソ

 たしかに、普天間基地の問題は日本全体で議論すべき話である。「米軍基地=沖縄の問題」ではない(そうした図式の報道を続けてきたのはマスメディアだが)。

 では、マスメディアは普天間問題について世論が判断する上で必要な正しい情報を提供してきたか。答え、全然してません。状況分析そっちのけで「アメリカ が怒っているぞ」と大騒ぎしたり、「沖縄から海兵隊がいなくなると日本の安全を損なう」といった、現実離れした主張をくり返してきただけではないか。

 地元紙・沖縄タイムスは、1月26日付の社説でこう述べている。「アジア太平洋に展開する米兵力約10万人の約半数が配備されている日本は世界有数の受 入国だが、政府は駐留について説明をしてきただろうか」「在沖海兵隊はいまイラクとアフガンでの戦闘に派遣され不在なことが多く、政府が強調する『抑止力 として重要だ』という説明は実態にそぐわない」

 実際、沖縄をはじめとする在日米軍基地は、米国が軍事力で世界を牛耳るための戦略拠点である。そして、グローバル資本の権益擁護という利害が一致してい るからこそ、日本政府は米国に軍事基地を提供しているのである。「朝日」の言う「広く国民の間で基地負担を分かち合う」とは、日本の安全保障上の話ではな い。侵略のコストを分担せよという意味なのだ。

 選挙結果が示す民意を平然と無視する政府首脳とそれを応援するマスメディア。「政権交代」が起きても、この連中は民主主義の何たるかを分かっちゃいない。  (M)
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