2010年09月10日発行 1148号
【「戦闘終結」宣言の大ウソ 米軍駐留の永続化狙う 終わらないイラク占領】
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「(イラクでの)戦闘任務は今月で終わり、大多数の部隊の撤退が完了する」。オバマ米大統
領は8月2日、18日、31日と米国民に向けた声明を発した。日本も含め大手メディアはそれに追随し、「最後の戦闘部隊が撤収」とあたかも占領が終結する
かのように報道している。だが、イラク占領の実態はなんら変わらない。むしろ戦争請負会社に占領軍の肩代わりをさせ、占領体制永続化にむけた焼き直しが図
られようとしているのである。
任務は変わらず
8月19日、イラク国境を出る米軍を米テレビ局が生中継した。「最後の戦闘部隊、撤退完了」と占領終結を強く印象付ける映像だった。オバマが大統領に就
いた2009年1月、イラクには約14万人余りの米軍が送られていた。今年9月からは5万人となる。1年7か月かかった9万人余の兵員縮少もオバマ大統領
は大手柄であるかのように宣伝する。
だが思い返してほしい。オバマの選挙公約は「16か月以内にイラクからの完全撤退」だったはずだ。であれば、すでに全占領軍の完全撤退を終えていなけれ
ばならない時だ。
今オバマ大統領が示すスケジュールはブッシュ政権がイラク政府と合意したものであり、そのごまかし方までそっくり引き継いでいる。オバマ大統領の「戦闘
任務の終結宣言」は、ブッシュ前大統領の「大規模な戦闘の終結宣言」(03年5月1日)と同じだ。ブッシュの宣言などなかったかのように、その後大規模な
空爆が頻発した。オバマの宣言もまた、何の意味もなさない。戦闘はやむことなく、相変わらず続くのである。
イラクに残された5万人の米兵は、イラク国軍・治安部隊の指導・助言にあたるとされる。しかし、彼らもまた武装兵士であり、これまでの部隊と同じように
戦闘能力をもつ殺人集団であることに違いはない。F16戦闘機や攻撃ヘリがミサイルや実弾を降ろすことはない。訓練と称して捜索・襲撃・拘束、空爆を実行
することは目に見えている。
しかも5万人という数は決して小規模なものではない。在日米軍・軍属の人数を上回る。イラクと日本の人口比を考慮すれば、日本で20万人の殺し屋集団が
常に国民に銃を向けている状況と同じなのである。
「11年末撤退」はない
では2011年末になれば、完全撤退されるのかといえば、けっしてそうはならない。
それを証明するものがイラク国内に建造した米軍基地の存在である。ホワイトハウスによると06年9月には357か所の基地を使用していたが、今年の9月
からは94基地に減るという。言い換えれば、依然として90か所以上の基地が存続しているということだ。
中でも、極東最大といわれる沖縄嘉手納基地(約20平方キロ)の2・5倍、約50平方キロという広大な面積を有するアサド、タリルの両基地や航空兵力の
中枢バラド基地など巨大基地が計5か所もある。1年余で撤去することなど到底、不可能な規模だ。イラク軍にそのまま引き渡すつもりもない。恒久基地として
残るのである。
イラク軍ジバーリー参謀総長が「2020年まで治安維持の任務をイラク軍が引き継ぐことは不可能。米軍支援が必要」(8/11AFP)と発言した。これ
を受けて、オディエルノ米軍司官は「イラク政府からの要請があれば駐留する」(8/22CNNテレビ)と、イラク側の希望に基づくとの形をとって長期駐留
を公言した。米政府高官の中には「(11年末以降も)5千から1万人の残留が必要」(8/18ニューヨークタイムズ)と具体的な数字まで挙げる者までい
る。
マリキ首相は「イラク軍の準備は十分できている」(8/14サバーハ紙)と参謀長発言を否定する談話を出しているが、マリキ首相にしても、オバマ大統領
にしても、自国民の批判を恐れて占領体制の継続という本音を口にしていないだけのことだ。
民間戦争会社は軍隊
巨大な恒久基地を存続させたその上に、米国は重要都市に国務省主導で新たな占領拠点を設置することを狙っている。バグダッドには数千人を擁する世界最大
の大使館がすでに存在しているが、新たに南部の中心都市バスラ、クルド地方政府の首都アルビル、北部の中心モスル、そしてキルクークに領事館・連絡事務所
を開設するという。
これらの都市は、巨大な石油資源を有していたり、宗派・民族主義勢力が抗争を繰り広げているところばかりだ。そこに前進基地を配置することにより、米政
府の政策意図を実現しようというのだ。
米国務省は、これらの施設の防衛・警備のためと称して、民間戦争会社の傭兵をこれまでの倍以上となる7千人に拡大することを公表した。
民間戦争会社とはいうものの、その実体は、自らレーダーから無人偵察機、地雷防御装置付き装甲車まで持ち、路上爆弾捜索・民間人救出作戦も実行する正真正
銘の軍隊だ。占領軍にはカウントされない軍隊なのである。撤退期限など何の「制約」もない部隊が支える新たな占領体制とも言うべきものが築かれつつある。
占領に巣食う腐敗勢力
占領体制を維持することは米政府にとってだけでなく、イラク政府を構成する宗派主義勢力、利権集団にとっても好都合となる。
閣僚ポストにつく政党指導者らは、「警護のため」として私兵を雇い、国庫から給料を払っている。そこには縁故、水増しなど、国家予算を食い物にする腐敗
がはびこっている。米国防総省が管理していたイラク開発基金のほとんどにあたる87億ドルの使途がわからなくなっている。
イラクの民衆に死の恐怖と電気・水不足の生活苦を押し付けたまま、占領体制に巣くう腐敗分子が私服を肥やす。これが占領の実態である。
まして、政府の石油・電力政策を批判する労働運動に対し、大弾圧をかけているのがマリキ政権だ。それは、グローバル資本の投資環境を整えるためである。
3月に実施された国民議会選挙後、各政党・政治集団間の利害調整がつかず、いまだに新政権が発足しない状況が続いている。米政権はフェルトマン国務次官
補を送り込み(8月14日)、マリキを首相とする調停案を提示するなどの介入を行っているが、目途は立っていない。
だが、誰が首相のポストにつこうが、この腐敗した占領体制を維持することに利益を感じる者ばかりだ。
占領軍即時完全撤退の声をさらに大きくし、政教分離の民主的政府樹立をめざすIFC(イラク自由会議)連帯を広げることは、ますます重要になっている。
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