2010年10月15日発行 1153号

【非正規固定化、正社員解体狙う 「有期労働契約研究会」最終報告書】

 貧困の元凶となっている非正規労働には、派遣労働と並んで雇用期間に定めのある有期雇用の 問題がある。厚生労働省の「有期労働契約研究会」(座長・鎌田耕一東洋大学教授)は9月10日、最終報告書を発表した。これに基づき有期雇用法制にかかわ る法案作成作業が進められていく。報告書から見えてくるのは、雇用の安定とはかけ離れた有期雇用=解雇付き雇用の固定化と争議つぶし、正社員の労働条件切 り崩しによる一層の総人件費抑制のたくらみだ。

非正規争議を「未然防止」

 現在、有期雇用に関連する労働法の条文は、労働基準法14条(一度の有期契約の上限として3年を超えてはならないとする期間制限<例外あり>)、労働契 約法17条(使用者による契約期間途中の解雇の規制)などしかない。これは、雇用とは本来期間の定めのない雇用であることを意味する。

 これに対し、今回の報告書は「有期契約が良好な雇用形態として活用されるよう」法的な固定化を打ち出すことを出発点とする。以下、具体的に見てみよう。

 報告書の第1の狙いは、有期雇用を固定化し、雇い止め撤回を求める争議をつぶすことだ。

 有期労働者の中で雇用不安をもつ者の割合は41%にのぼると指摘する一方、雇い止めに関する紛争が増加しているので「未然防止」が重要と位置づける。現 状では、期間の定めのない契約と実質的に変わらなくなっている場合や雇用継続に期待が認められる場合、雇い入れ当初から雇用の継続が期待される場合など は、単に契約期間が終わったからといって解雇はできない。争議が闘われる中で労働契約法16条の解雇権濫用法理(注)を有期雇用にも適用させる判例が確立 されてきたからだ。正社員の解雇と同様に社会的に相当であると認められる理由がないと首を切れないのだ。

 首切りを合法化

 そうした運動が積み重ねてきた判例法理をくつがえし、「期間の定めのある雇用契約は契約期間の満了によって当然に終了」することをすべての有期雇用にあ てはめ、争議自体を起こさせない。報告書のいう紛争防止とは、「(現行の)雇止め法理は、雇止めが認められなかった場合にも無期労働契約に転化するわけで はなく期間の定めのある契約が更新して存続する」ことの立法化に他ならない。

 また、使用者側代表として研究会に意見を具申する経団連は、報告書中間報告(10年3月)では提起されていた「締結事由」規制(有期契約を利用できる理 由の制限)=入口規制について反対意見を出し、有期雇用を思いのままに使えるようにと力を込めた。結果、最終報告書には「入口規制を設けるかどうかさまざ まな議論がある」と規制は入らなかった。

正社員の「流動化」も

 第2の狙いは、正規雇用を「多様な正社員」として不安定雇用へとおとしめることだ。

 現在の経団連の前身の一つ、日経連が95年に出した『新時代の日本的経営』は、労働者をひとにぎりの長期蓄積能力活用型、高度専門能力活用型、雇用柔軟 型という3つに分類した。これに沿った法整備として派遣法の規制緩和やパート労働法制定などが行なわれ、雇用柔軟型=非正規雇用が押し広げられてきた。

 次にやって来るのは、正社員の中の一部を除いた多数を、解雇制限法理に縛られることなく必要に応じて簡単に解雇できる不安定雇用同様の位置へと押し下げ ることだ。

 中間報告から最終報告に至る論議経過から、その狙いが透けて見える。中間報告では、研究会はその名の通り「正社員に適用されるルールを論ずる場ではな い」と明言していた。ところが、経団連から「正社員に関わる問題を除外して本件諸問題を解決するのは非常に困難」と提起を受け、雇用安定(「正社員」化) を名目として「従来の正社員のみでなく『多様な正社員』の環境整備も視野に」と変更された。

 「多様な正社員」とはどのようなものか。報告書のところどころに見える「勤務地限定」「職種限定」の言葉が鍵になる。報告書は、「有期契約労働者を正社 員に転換すること」は「使用者にもハードルが高い」し労働者も「望まない」から対案として「『勤務地限定』『職種限定』の無期雇用契約など環境を整備」と 提起する。

 賃金抑制と首切り自由

 いわゆる「正社員」と一線をひく「限定型正社員」は、使用者の指揮命令権が限定されることで賃金に差をつけることが正当化される。また、勤務地・職種に 変更がない限りは確かに期間の定めのない雇用となるが、事業所や業務がなくなったり移動したりすれば、解雇制限法理をすり抜けて解雇されてしまう。企業は 賃金抑制が図れ、責任も通常より軽くて済むのが「多様な正社員」に他ならない。

 現在の正社員層をひとにぎりの「正社員」と大多数の「多様な正社員」へと分断していくのが真の狙いである。譲歩したかに見せかけ、さらなる労働規制緩和 を推し進めるのは、政府の常とう手段だ。

 今後、報告書の内容は労働政策審議会にかけられ、法制化が進められる。非正規当事者を先頭に、期限の定めのない正規雇用こそ原則として掲げ、差別のない 均等待遇を実現していく運動が重要となっている。

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(注)労働契約法16条
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
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