2010年11月05日発行 1156号
【大阪維新の会・橋下の大阪都構想 自治体の総力を産業政策に集中 地方からの新自由主義政策】
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大阪府橋下知事は4月19日、自身が代表となって地域政党「大阪維新の会」を立ち上げた。
維新の会が掲げるのは「One
Osaka!」をキャッチフレーズとした大阪都構想だ。道州制による関西州設立への第一歩であり、地方自治体の持てる力の大半をグローバル資本の経済活動
につぎ込むことが狙われる。住民生活や福祉分野は、グローバル資本が食い荒らした財源の残りと「自己責任」でまかなえ、と切り捨てられる。
大阪都構想とは
大阪都構想は、地方公共団体としての「大阪府」と「大阪市」および大阪市に隣接する9市を消滅させ新たに20の特別区を設立、20特別区と大阪府下の市
町村を一まとめにし、「大阪都」を設立するというもの(図1)。特別区の税収は大阪都の収入とされ、特別区の予算は都から配分される。特別区の首長である
区長は公選で、同じく公選の議員からなる区議会とともに区の施策を決めていく。
橋下は「指揮官が1人なら、今までのように大阪がバラバラにならず、空港にしても港湾にしても軸のある行政ができる」とする(4/15日経)。大阪市1
兆8千億円、大阪府3兆9千億円、合計5兆7千億円の一般会計予算(2010年度当初)を「指揮官と財布をひとつにする」ことでスピーディに集中して投資
するのが狙いだ。
都はインフラ整備や産業振興など「広域行政」を担い、特別区は区民生活を担う。橋下が常々主張しているのは、「アジアでの都市間競争に勝ち抜く」ことで
ある。グローバル資本主義下での都市間競争なのだから、勝ち抜くためには域内GDP(国内総生産)を押し上げる成長産業の育成・企業誘致とグローバル市場
への自由なアクセスが必須となる。広域行政としてのインフラ整備・産業振興は必然的にグローバル資本の経済戦略と一体となる。
指揮官1人で産業再編
この大阪都構想の下で、どのような産業振興策が想定されているのか。
9月大阪府議会を前に大阪府が発表した「日本を熱くする大阪・関西の総合特区」(仮提案)等一連のプランが、橋下の目指す産業振興策の一端を示している
(図2)。
まず、パナソニックや同社に完全子会社化される予定の三洋電機(蓄電池)、堺市沿岸部に展開するシャープなど液晶パネル・太陽光パネル製造企業を集積し
た通称「パネルベイ」を中心とする環境・新エネルギー開発。これらの企業の本社のある門真市・守口市・大阪市とパネルベイを要する堺市は「大阪都」の特別
区に再編される。
バイオ・先端医療産業の集積を目指す国際文化公園都市(彩都)は茨木市に位置し、先端技術研究機関集積地と位置づけられている関西文化学術研究都市(け
いはんな学研都市)は大阪府北東部・京都府南部・奈良県北西部にまたがる。これらと神戸医療産業都市や大手中小製薬会社300社、国立大阪大学、国立循環
器病研究センター、大阪府立大学、大阪市立大学をリンクさせて次世代産業を育成し大阪府内のGDPを押し上げることを目指している。
域内産業のアジア・世界への出入り口として国の「国際戦略港湾指定」を受けた阪神港(神戸港・大阪港)、関西国際空港を位置づけている。
だが、その産業基盤を支えるインフラ整備には、各市町村との合意形成が必要だ。例えば、大阪港の管理者は大阪市長であり、関空と都市部をむすぶ交通手段
として橋下がぶち上げた「関空リニア」建設も大阪市や通過する周辺市との調整は欠かせないが、それぞれの首長も持論があり、手間ひまがかかる。橋下の目に
は解消すべき「二重行政」に映り、自身の成長戦略に迅速かつ集中的に投資するために「指揮官は1人、サイフもひとつ」の大阪都構想が持ち出されたのだ。
大阪都から関西州へ
大阪都構想の先にあるのは「関西州」構想である。
現在、国からの権限委譲の受け皿として、近畿圏の府県が手をむすぶ関西広域連合の設立が急がれている。橋下は、就任早々にぶち上げた関西州構想へのス
テップとして関西広域連合設立・大阪都構想実現へとひた走ろうとしている。橋下の関西州構想は大阪都構想のスケールアップ版であり、広域産業振興に主眼が
あるのは間違いない。
例えば道路網整備。日本通運は、関西各地に点在する電子部品など半製品の製造企業と液晶テレビや太陽電池などの完成品を製造するシャープ、パナソニック
の工場をむすぶ「ミルクラン構想」を立てている(図3)。各社がばらばらに輸送している資材、完成品を日通が一手に引き受け、巡回輸送することで物流コス
トを下げるというものだ。
このような物流システムは、関西圏一円をむすぶ道路・鉄道網の計画的な整備でより効率的になる。また、大阪国際空港(伊丹)廃止に反対する国土交通省や
地元市は橋下の視点からは「抵抗勢力」であり、「大阪都」「関西州」の広域行政権限があれば強行できる可能性もある。域内グローバル資本にとっては、中央
省庁よりも地元の州政府の方が使い勝手が良い。大阪都を突破口にした橋下の関西州構想は、グローバル資本の経済活動を支えるオール関西の体制整備だ。
切り捨てられる住民生活
では、住民には何がもたらされるのか。
大阪都構想は産業振興とインフラ整備のためのものであり、生活に直結する教育・医療・福祉はその構想に従属した施策となる。「都」の財政が産業振興など
に特化される結果、住民生活分野を丸投げされる特別区は、あてがわれる限られた財源の範囲内で「自己責任」でまかなう以外にない。
構想での住民生活部分は明らかにされていないが、橋下府政やそのブレーンらの言説から一端が読み取れる。
例えば教育。橋下は大阪の全国学力テスト成績に不快感をあらわにし、府・市教育委員会を罵倒した。そして「選挙で選ばれた首長が教育に責任を持つべき
だ」と主張し、私立学校を含めた学校間競争を迫っている。同時に、府立高校の中から「進学特色校」を指定し、「エリート育成」に注力している。これは研究
開発・新産業育成などグローバル資本の成長戦略を支える人材育成に的を絞った教育政策だ。橋下が掲げる「教育日本一」へ予算が投じられるのは、自己責任で
エリート育成に耐えうる一握りの子どもだけだ。その他の子どもたちは切り捨てられる。また、橋下府政の下で最初に解雇され切り捨てられたのは非正規の学校
職員だった。
橋本のブレーン(府特別顧問)・上山信一は、すでに大阪市営地下鉄の即時民営化、水道事業の統合と民営化を提言している(『大阪維新』)。
福祉や医療も同様だ。全国最多の受給者を抱える大阪市の生活保護支出は真っ先にターゲットにされるに違いない。老人・障害者福祉をはじめ、「大阪都」の
コスト削減、市場開放の基準を満たさないものは容赦なく切り捨てられることとなる。
橋下大阪都構想は、グローバル資本の成長戦略に血税を丸ごと投げ込む、「下」から、地方からの新自由主義政策である。府民・市民の切実な生活要求を運動
で突きつけていかなければ、住民生活は破壊されつくしてしまう。
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