2011年04月08日発行 1177号
【原発推進のためのICRP基準 「これ以下は安全」という被曝なし】
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政府やマスコミが「ただちに健康に影響は出ない数値」とする時に引用される国際放射線防護
委員会(ICRP)の基準。だが、このICRP、実は各国政府・電力資本の原発推進を後押しする団体である。ウラニウム(劣化ウラン)兵器禁止条約実現
キャンペーン(UWBAN)の小山潔さんが解説する。
テレビは「安全」の大合唱
皆さんはテレビで大学教授や専門家の「安全だ」の大合唱を毎日聞かされてうんざりし、不安と不信を抱えているでしょう。「年間被曝線量の規制値1ミリ
シーベルトを超える恐れはないので安心だ」「ただちに健康に影響が出るレベルの放射線量ではない」「100ミリシーベルト以下なら影響は出ない」「CTス
キャン1回分(約10ミリシーベルト)の線量より低いから問題ない」―代表的な言い方はこのくらいでしょう。
「ただちに健康に影響が出るレベルでない」と言う時の「影響」とは、急性放射線障害だけを指します。具体的には出血、内出血、白血球の減少、脱毛、やけ
ど等です。低線量の被曝が将来引き起こすがん等は含まれません。「100ミリシーベルト以下なら影響はない」というのもこの急性障害の話です。国際放射線
防護委員会(ICRP)というNGOの2007年勧告には「100ミリシーベルトより高い線量では確定的影響の増加、がんの有意なリスク(危険)があるた
め、参考レベルの最大値は年間100ミリシーベルト」という内容の記述があります。「CTスキャン1回分より少ない」云々もおそらくこの参考レベルを根拠
にしています。ここでは急性の障害しか言及しません。
ICRPは核開発推進機関
では、「年間1ミリシーベルト」なら安全でしょうか。
「公衆の年間被曝限度1ミリシーベルト」は、先に触れたICRP勧告の内容です。ICRPは1950年、原爆を作ったマンハッタン計画にかかわった米国
の物理学者らが中心となって前身組織を拡大して設立されました。それは、主要な委員を内部で相互に任命しあう閉じられた私的組織です。しかも核保有国や原
発推進国の学者、官僚が主要ポストを占め、その委員は各国の放射線基準に関わる役職や国連機関の委員を兼任します。そのために単なるNGOの勧告が、政治
力によって世界基準に仕立て上げられ、国際原子力機関(IAEA)や各国で採用されます。まるで株式や国債の格付会社みたいです。
ICRPの目的は、核保有国や原子力産業から被曝の被害の賠償責任を免除することです。2007年勧告には、目的として「被曝を伴う活動を過度に制限す
ることなく(中略)人と環境を適切なレベルで防護すること」とあり、決して最大限の防護ではありません。「適切なレベル」とは、社会が放射線で被る損失と
原子力によって得る「利益」(核兵器と核実験も含む)とのバランスで被曝限度を決めることです。だから年間限度1ミリシーベルトには何の科学的根拠もな
く、「1ミリシーベルトまでは我慢しろ」という意味です。
あらゆる核兵器開発も「利益」とされ、私たちはそれと引き替えに「基準内」で被曝させられます。原発周辺の住民は電力会社の利益のために被曝を強要され
るのです。
被害を覆い隠す不正データ
ICRPは、どのように放射線の被害を覆い隠すのでしょうか。
代表的な例は、被曝線量とその影響のデータの不正な扱いです。ICRP勧告の大きな根拠とされるのが、米国機関による原爆被爆者の被曝線量と健康調査の
データです。このデータ収集は1950年から始まったので、それ以前に死亡した被爆者は記録されません。また爆心から3キロ以遠で被爆した人や入市被爆者
は「非被爆者」に数えられ、3キロ以内の「被爆者」との比較対照群に入れられました。これでは「被爆者」と「非被爆者」の健康状態の差が過小評価され、正
しい結果が得られるはずがありません。
2つ目の不正は、内部被曝をほぼすべて除外することです。原爆被爆者の例で見ると、爆心から3キロ以内の初期放射線で被曝した人(外部被曝)の線量推定
値のみを記録し、死の灰を吸い込んで被曝した内部被曝や、爆発後に爆心に入って残留放射線に被曝した「入市被爆者」の被曝量は考慮されませんでした。外部
被曝は高い線量の放射線を一瞬に全身に浴びます。一方内部被曝では、摂取され肺や骨など一部分に比較的長時間とどまった死の灰やウラン原子によって、その
周辺の細胞が集中的に被曝します。わずかの線量でも影響が出ることはチェルノブイリ事故や原爆症認定訴訟でも実証済みです。湾岸戦争やイラク戦争後のがん
や先天性障害の急増も劣化ウランの内部被曝が原因だと強く疑われています。しかしICRPは、内部被曝を無視して作った数式モデルをふりかざし、いまだに
放射線被害を過小評価します。
3つ目の不正は、がん以外の病気は放射線に起因しない、という線引きです。原爆認定証訴訟では肝臓病や糖尿病、免疫疾患などの放射線起因性が争われ、す
べて原告・被爆者が勝訴しました。しかし政府は今もICRP基準を基にした認定基準を大きく変えようとしません。
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ICRP基準に基づく安全宣伝がどれほど嘘であるか、イメージが湧いたでしょうか。放射線は、死の灰でもレントゲンのX線でも、わずかでも浴びれば影響
が蓄積すると考えるべきなのです。
では、どうやって自分の健康を守るか。放射線の数値を判断するなら、私は自然放射線量(たとえば大気中なら毎時0・04マイクロシーベルト)を参考にし
て、これの何倍かを目安にします。
以上は、ロザリー・バーテル博士、肥田舜太郎医師、矢ヶ崎克馬教授らの著作を参考にしました。
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