2011年06月24日発行 1187号

【巻き返しはかる原発推進勢力 菅降ろし≠フ狙いは原発延命】

 内閣 不信任決議案は否決されたが、民主党内や閣内からも早期退陣論が噴出する中で菅直人首相が退陣することは確実になった。ポスト菅候補をめぐる駆け引きが始 まった。この背後には原発推進勢力の動きがある。原発延命を許さず、停止中の原発の運転再開を阻止し、原発即時停止・廃止を実現していかなくてはならな い。

浜岡全炉停止に危機感

 すでに大震災前から、内閣支持率の低落に示される菅内閣への国民的不信は明らかだった。大震災と福島原発事故の発生以降も、震災被災者の救援の遅れや原 発事故に関する情報隠し、避難計画のずさんさなど、菅内閣は国民の期待に全く応えていなかった。

 だが、この時期に不信任決議を成立させ菅内閣を交代させることを国民が望んだわけではない。自民党の発議に民主党内からも大量の同調者が出るという超党 派の菅降ろし≠フ動きは何だったのか。

 その背後には、原発延命を求めるグローバル資本とそれを代弁する原発推進勢力の動きがあった。

 民主党政権は昨年6月、菅内閣の下で「エネルギー基本計画」を改定し、2030年までに「原発を少なくとも14基以上新増設」「総発電量に占める原発の 割合を50%まで増やす」との具体的目標を盛り込んだ。

 だが福島原発事故が深刻化し反原発世論が高まる中で、菅首相は5月9日、浜岡原発の全面運転停止を中部電力に要請。翌10日には「従来のエネルギー計画 はいったん白紙に」と表明した。5月19日には電力会社の発電・送電部門の分離について「選択肢としてあり得る」と、25日には「20年代の早い時期に自 然エネルギーを20%に引き上げる」と発言した。

 こうした菅の原発「見直し」発言はグローバル資本の激しい怒りを呼び起こした。日本経団連の米倉弘昌会長は、浜岡原発停止要請について「唐突感が否めな い。…政治的パフォーマンス」、発送電分離についても「動機が不純だ」と批判。また6月7日に開かれた「新成長戦略実現会議」(議長・菅首相)を欠席し、 翌8日には停止中の原発の再稼働について「菅内閣のいろいろな発言で難しくなっている」と批判した。

 米倉による一連の菅批判は、「このまま菅内閣が続けば、世論に屈して原発推進路線を本当に修正しかねない」という原発推進勢力の危機感の表明にほかなら ない。

民・自両党に原発推進派

 資本の意向を受けて、政党の動きも活発化している。

 5月5日、自民党内に「エネルギー政策合同会議」が発足した。委員長が甘利明・元経済産業相、参与には東電顧問の加納時男・元参院議員(元東電副社長) が就任した。党幹部は「原発を守るためにつくった」(5/5朝日)と明かす。そして菅首相が浜岡停止要請をはじめ原発推進路線の見直しに言及し出した5月 18日、谷垣禎一総裁は不信任提案の意向を表明した。

 もともと「国策」として原発を推進してきたのは自民党だ。電力会社でつくる電気事業連合会は80年代前半から11年間で約65億円を党機関紙の広告費と いう名目で自民党に支払い、今でも9電力会社が役員の「個人献金」という形をとって実質的に企業献金を続けている。

 民主党は06年7月小沢代表時代に、原発について「過渡的エネルギー」という消極的な位置付けから「恒久的エネルギー」として積極推進する方向に党の政 策を転換した。この方針転換を主導したのが原発推進の電力総連だ。電力総連は、東電出身の小林正夫(鳩山派)、関電出身の藤原正司(小沢派)をはじめ民主 党議員に政治献金し、大きな影響力を行使している。

 菅内閣の不信任決議が焦点になりつつあった5月31日、超党派の「地下式原子力発電所政策推進議員連盟」が発足した。会長には「たちあがれ日本」の平沢 赳夫代表、顧問には民主党の鳩山由紀夫・前首相、羽田孜・元首相、渡部恒三最高顧問、自民党の森喜朗・元首相、安倍晋三・元首相、谷垣総裁、国民新党の亀 井静香代表がそれぞれ就任した。この動きが、超党派の菅降ろし≠ニつながっている。

原発の再稼働を許すな

 経産省も原発の延命に必死だ。エネルギーの見直し議論は「新成長戦略実現会議」の下に設置される「エネルギー・環境会議」(議長・玄葉光一郎国家戦略担 当相)で行なわれるが、国家戦略室の素案では「原発死守」の構図が明確な上、同会議は直嶋正行・元経産相や近藤洋介・元経産政務官など「経産シフト」で固 められていた(6/7東京新聞)。菅はこの案を拒否し、直嶋、近藤両氏をメンバーから外したと報じられているが(6/11朝日)が、推進派の策動は執拗 だ。

 原発推進勢力の狙いは、菅退陣を機に菅の「原発見直し表明」を無効にし、原発の延命を図ることにある。政府・電力資本の「電力不足」の脅しを批判し、停 止中の原発の再稼働阻止、全原発廃止の声を広げなければならない。
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