2011年07月29日発行 1192号
【国民に被曝を強いる でたらめな食品「暫定基準」】
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福
島原発事故以来、日本国内のあらゆる食品から放射性物質の検出が続いている。政府は「暫定基準」を下回っている
から人体に影響はないとして汚染した食品の出荷を続け、自治体もこれに追随している。だが、国の暫定基準自体、
科学的根拠もなく、いわゆる「国際的基準」からもかけ離れたものだ。
飲料水の基準を引き上げ
フクシマ以前は、日本には放射能に関する基準値がなかったとされている。だが、そうではない。正確には、水道
水にはWHO(世界保健機関)が定めた「飲料水中の放射性核種のガイダンスレベル」があり、日本政府は事実上の
国内基準として使用していた。これによれば、原発事故で流出する放射性物質のうち代表的な核種である放射性ヨウ
素131、放射性セシウム134、セシウム137についてはいずれも1リットルあたり10ベクレルが基準値だ。
WHOは、飲料水による被曝量が年間0・1ミリシーベルトを下回るようにこの基準を定めたとしているが、これら
は本来自然界には存在しない放射性物質だから、当然、ゼロでなければならない。
ところが、福島原発の相次ぐ爆発などで放射性物質の大量流出が避けられないと見ると、厚生労働省は水道水や食
品についての「暫定基準」を制定した。放射性セシウム134、137の合計値で1リットルあたり200ベクレル
(WHOガイダンスレベルの10倍)、放射性ヨウ素131に至っては1リットルあたり300ベクレル(WHOガ
イダンスレベルの30倍)という数値である。これでは飲料水からの被曝量をWHOの定める年0・1ミリシーベル
トはもちろん、年1ミリシーベルト以内に抑えることも困難だと容易に読み取れる。
乳児の放射性ヨウ素131摂取に関しては、1リットル当たり100ベクレルと成人の3倍厳しいが、それでも
WHOガイダンスレベルの10倍まで摂取を許容している。放射性セシウムに至っては1リットル当たり200ベク
レルであり成人と同じ基準だ。乳児にこのような高い被曝を強要することは許されない。
被曝前提の「安全」対策
基準が事実上ないに等しくでたらめなのが野菜・魚介類だ。両方とも放射性ヨウ素131を1キログラム当たり2
千ベクレルまで許容。この値は一般に国際基準とされるコーデックス基準(注)の20倍というとんでもないもの
だ。
これらの暫定基準は、すべてEU(欧州連合)に合わせて作られている。EU諸国の多くはいまだチェルノブイリ
原発事故の後遺症に苦しんでいる国が多く、その基準は主要国の中ではフィリピンに次いで2番目に甘い。
日本政府がEUに合わせて暫定基準を定めた理由もそれに尽きる。つまり、福島原発事故の長期化を見越して、
チェルノブイリ後のソ連・ヨーロッパ諸国のように、甘い基準値の下、国民に一定程度の被曝を強いることを前提に
した食品衛生を今から想定しているわけだ。このでたらめな基準が「暫定」ではなく恒久的基準として今後数十年、
日本の食品衛生政策を支配することになる。
子どもたちを守るという視点に立ち、そうした事態は阻止しなければならない。
「国際基準よりも甘い」
福島原発事故後に消費者庁がまとめた「食品と放射能Q&A」は、「暫定規制値は、海外と比較して違いがありま
すか」との質問に対してこう答えている。「コーデックスの指標値は、ヨウ素(131)だけで比較してみると、我
が国より厳しくなっています」。核種による違いがあるとはいえ、日本の基準値が一般的な国際基準より甘いことを
政府みずから認めているのだ。
原発事故で流出した放射性物質の多くは半減期が長く、環境中に長期間蓄積し続ける。チェルノブイリ原発から南
東に約70キロメートル離れたウクライナ共和国のナロジチでは、事故から21年後の2007年の時点でも肉から
は1キログラム当たり1万ベクレル、野生のキノコからは6万ベクレルを超える放射性物質が検出されている。事故
の規模がチェルノブイリを超えるといわれる福島では、これ以上の悲劇となる可能性がある。
政府は決して国民を守らない。国民総被曝を強要する日本の暫定基準を撤回させなければ未来はない。
(注)コーデックス基準:1963年にFAO(国連食糧農業機関)とWHOが設置した国際機関「コーデックス委
員会」が定めた基準。消費者の健康の保護と食品の公正な貿易の確保等を「両立」させるとの目的での基準であり、
経済活動のために一定程度の健康の犠牲は前提となる。
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