2012年01月20日発行 1215号

【そうだったのか学校選択制/市場の原理で統廃合を促進/橋下の狙いは学校つぶし】

 大阪市の橋下徹市長が学校選択制の導入に向けて動き出した。小・中学校の学校選択制は、橋 下率いる「大阪維新の会」がダブル選挙で掲げた目玉公約のひとつ。「学校を競争させれば、教育は良くなる」と橋下は言うが、本当のところはどうなのか。巧 みな弁舌が覆い隠す真の目的は何なのか。「そうだったのか」形式で明らかにしたい。

競争原理導入を公言

 小・中学校の学校選択制は全国で約15%の自治体が実施しています。最先端地の東京都(特別区域)の場合、23区中19区が実施。区内すべての学校につ いて選択を認める「自由選択制」を行っている区が、小学校で7区、中学校で16区もあります。

 また、東京都では独自に行っている学力テストの結果が学校別に公開され、その情報が学校選択の際に大きな影響を及ぼしています。橋下が大阪市に導入した いのは、こうした選択制と学テの結果公開をリンクした仕組みです。

東京都のある中学校 における学校選択動向などの比較
  年 度 選 択動向
(差引)
生 徒総数 就 学援助
生徒数
就 学援助率
X 中学校 02 年度 -17人 253 人 71 人 28.1%
03 年度 -12人 278人 82人 29.5%
04 年度 +37人 369 人 92 人 24.9%
05 年度 +23人 428人 102人 23.8%
Y 中学校 02 年度 ±0 人 150 人 52 人 34.7%
03 年度 -37人 116人 45人 38.8%
04 年度 -33人 113 人 45 人 39.8%
05 年度 -35人 79人 38人 48.1%






*「選択動向(差引)とは、校区外からの入学者と、校区外への入学者を差引した人数。
出所『学校選択と教育バウチャー』(嶺井正也・中川登志男著/八月書館)

 大阪市は現在、小・中とも選択制ではありません。橋下の要請を受け、市教委は保護者や地域住民の意見を聞く場を設けるようですが、公的には「時間をかけ てじっくり意見交換する」(永井哲郎教育長)との立場のままです。

 このような役人的慎重論に橋下は激しくかみつきます。いわく「公務員が学校選択制に反対するのは競争したくないからだ」「今の教育現場には競争がない。 黙っていても商売が成り立つ。こんなんじゃ必死に仕事をするわけがない」。だから、学校をもっと努力させるために、選択制の導入で競争を促すべきだと言う のです。

 また、最近では格差をなくすためにも選択制が必要だと主張しています。「学校を地域で固定化しているから(学力などの)格差が生まれる。行きたい学校に 行ける学校選択制こそが格差を生まない唯一の手段」(12/6毎日)

教育格差を拡大

 「口からでまかせ」とはこのことを言います。橋下流の「教育改革」が格差の拡大を志向していることは、「教育基本条例案」の作成を担った維新の会の坂井 良和・大阪市議が認めています。「私は格差を生んでよいと思っている。…まずは格差を受け入れてでも、秀でた者を育てる必要がある」(10/10朝日)

 第一、学校選択制が様々な面で学校間格差を広げることは、各地の事例が証明しています。前橋市では、小規模校の人数減少が急速に進み(保護者に敬遠され た)、学校運営に支障をきたすようになりました。そんな中学校の元校長は「義務教育なのに、教育を提供する側がこんな格差を認めていいのかと思った」と振 り返ります(12/22朝日夕刊)。

 また、学校選択制導入後、生徒数が3分の1以下に減ってしまった長崎市のある中学校の教員は言います。「いったん減り始めると流れは止めようがない。競 い合えば学校の魅力が上がるというのはまやかしだ」(同)

 学校選択制と学力テストの結果公開をともに実施している自治体では、保護者の選択行動が学テ結果に左右される傾向がはっきりあらわれています。端的に言 うと、成績の良い学校に入学希望が集中する一方、良くない学校は生徒数を減らしています。

 下の表を見てください。都内のある自治体のX中学校は学力テストの結果公開で成績優秀であることが判明した直後から生徒の流入数が増えています。逆に、 同じ自治体のY中学校はテスト結果が毎回良くないせいか、学校選択を避けられる傾向にあります。

 このY中学校は学校全体の生徒数が減る割には、就学援助を受けている生徒数に大きな変化はありません。このためY中学校の就学援助率は年々高まっていま す。経済的に苦しい家庭の子どもは簡単に遠くの学校には通えない、ということです。

 橋下の狙いが実現すれば、大阪市でも必ず同じことが起きます(ちなみに、大阪市の就学援助率は約33%。全国平均を20ポイントも上回っています)。貧 困層が取り残された「不人気校」において、教育困難に拍車がかかることは目に見えています。

手を汚さずに廃校へ

 このように、学校選択制は「人気校」と「不人気校」の分化を必然的にもたらします。いったん「不人気校」のレッテルを貼られると、教職員や保護者・住民 がどんなに努力をしても他校への流出を止めることは困難です。そして、行きつく先は生徒数の減少による廃校です。

 学校選択制に詳しい山本由美・和光大学教授は「東京の各区では、選択制導入とほぼ同時期に、『適正規模・適正配置計画』と称する統廃合計画により小中学 校の適正基準、最低基準が設定され、『選択』されない単学級の小規模校は簡単に廃校にされてきた」と指摘します(花伝社『学力テスト体制とは何か』)。

 事実、東京23区では学校選択制の導入が本格化した02年度以降、小・中あわせて80以上の学校が減ってしまいました。保護者の間からは「行政は選択制 を実験のように持ち込み、統廃合の根拠づくりに使ったんじゃないか」と疑う声も出ています。

 そのとおりですね。行政当局にとって学校選択制は、自らの手を汚さずに学校の数を減らすための手段なのです。「住民の皆さんが選択した結果」と言えば、 責任を負わずに済みますから。それに、選択制の下では学校と地域の結びつきがどうしても弱くなるので、なおさら統廃合を進めやすくなります。

 橋下も選択制導入の狙いに学校つぶしがあることを公言しています。橋下は市教委に対し、2014年度末をめどに市立小学校を統廃合する再編プランの作成 を指示しました。「子どもの数が減っているのに小学校の数は減らないのはおかしい」というのが彼の言い分です。

 「地域の理解を得ないと無理には進められない」とする市教委に対しては、こう言い放ちました。「保護者の選別にさらして自然に統廃合を促す手法として学 校選択制がある」(12/24朝日)。これが橋下の本音です。教育費の削減効果が大きい学校統廃合の促進こそが、学校選択制導入の本当の狙いなのです。

目的は教育費の削減

 橋下が提唱する大阪都構想との関係を説明しましょう。大阪都構想の本質はグローバル資本に奉仕する自治体づくりですね。巨大企業の利益にかなう大規模開 発や企業減税を進めるには財源が必要です。だから、教育や福祉などの非採算部門を切り捨て、予算を減らしたいのです。

 大阪都構想にはカネを生む自治体の資産を企業に売り渡すいう狙いもあります。府知事時代、府立青少年会館を廃止し、施設を大手不動産会社の長谷工に安値 で売却した橋下のことですから、廃校後の跡地を叩き売ることも当然考えているでしょう。

 このように、新自由主義の申し子たる橋下は企業を儲けさせることしか考えていません。競争と切り捨ての教育によって子どもの成長が阻害されようが、教育 の機会均等が破壊されようが、地域の荒廃が進もうが、彼にとってはどうでもいいことなんです。

 くり返します。学校選択制導入の目的は教育費の削減です。子どものためなんかじゃありません。学校不信を利用した橋下のペテンに踊らされてはなりませ ん。  (M)


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