2012年02月24日発行 1220号
【シネマ観客席/イエロー・ケーキ クリーンなエネルギーという嘘/ヨアヒム・チルナー監督 2010年 ドイツ
108分/ウラン採掘による放射能汚染】
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原子力発電の燃料となるウランは、その採掘段階から大量の放射性物質を発生させる。石油によるCO2(二酸化炭素)排出問題はよく議論されるが、ウラン
の放射能は話題に上ることさえない。しかし、ウランの開発と使用は地球を放射能で汚染し、破滅に導く。ドキュメンタリー映画『イエロー・ケーキ クリーン
なエネルギーという嘘』は未来を危うくするウラン開発に警鐘を鳴らしている。

タイトルの「イエロー・ケーキ」とは、天然のウラン鉱石を精錬して得られるウランの黄色い粉末のこと。この粉が気体への転換、濃縮、粉末への再転換を経
て燃料棒の元になり、束ねられた燃料棒が原子炉の中で核分裂をして熱を生み、発電機を回す力となる。二酸化炭素を出さず、再処理で繰り返し使用できる「ク
リーンなエネルギー」と宣伝された。
本作品は、ドイツに始まってナミビア、オーストラリア、カナダへと世界有数のウラン採掘現場を5年間にわたって取材し、「クリーンなエネルギー」の嘘を
明らかにしたものだ。
旧東ドイツ南部、ヴィスムート社が所有するウラン採掘地。かつては世界第3位の生産量を誇り、その100%を旧ソ連に輸出していた。鉱石から取り出され
る、使えるウランの成分は0・1%。99・9%が廃棄される。1990年代まで採掘が行われたが、廃止後の今も1千以上の残土の山から放射能を出し続けて
いる。
“汚染ボタ山”の汚泥を地中に埋める作業はダンプカー1台なら地球を39周する距離になる。汚泥を運ぶ巨大なダンプが列を成すシーンは、一度作られてし
まった放射性物質の怖さを20年後の今に伝えている。この後始末のために、1日4万リットルのガソリンが使われる。東西ドイツ統一後、政府は同地を危険地
域と指定したが、そこで働いていた人々の肺ガン発症率が高いことは公式発表されていない。
貧困につけ込む
世界最大のウラン露天掘り鉱はその後、アフリカのナミビアに移った。ロッシング鉱山は1976年に操業開始。30年間で10億トンの鉱石が掘り出され、
大部分は山腹に廃棄された。
取材許可を英国の鉱山主から得るのに2年を要したという。カメラはウラン精製工場に入り、イエロー・ケーキを映し出す。空撮で、選鉱くずの土砂が巨大な
管から流されダムのようになった廃棄現場をとらえる。砂漠に吹く毎時100キロ以上の暴風、大雨による汚染水が、世界最古といわれるナミブ砂漠を汚染し続
けている。
鉱山のナミビア人支配人は「新しい鉱床が2つ見つかった。これで更に30年は採掘が可能でしょう。核燃料をこの先もずっと提供でき、ナミビアの経済を支
えます。鉱山や廃棄物の問題よりも、地域に雇用をもたらしたことが大事です」と話す。
一方、2002年からここで働く女性労働者はインタビューに「安全だとは思うけど100%じゃない。毎月のように病気になる人がいる。汚れた粉塵のせ
い」と答え、自分の体の被曝の程度は「よく知らない」。
貧困につけ込んだ大国のビジネスは、人権を無視し、命をないがしろにする。マーシャル諸島でのアメリカの核実験、タヒチのモルオア環礁でのフランスの核
実験―いずれも情報が隠され、多くの現地住民が放射能被曝にあっている構造と変わらない。
こうした危険を隠ぺいしてまでウランが採掘される背景を探るべく、取材クルーは現在世界一のウラン産出国オーストラリアやカナダにも向かう。
原子力と共存は無理
作品が公開されたのは2010年、福島原発事故の直前だ。ウラン開発・採掘―原発と核兵器への使用―核のごみ蓄積―再処理―最終処分、どの過程でも大量
の放射能が排出される。この連鎖を断ち切る以外に人類も地球も生き残れないことを改めて思い知らされる。
ヨアヒム・チルナー監督は旧東ドイツ出身。製作のきっかけは「なぜ原子力の出発点である『ウラン採掘』が話題に上らないのか疑問に思ったから」だとい
う。「ドイツは確かに脱原発に舵を取り始めたが、完璧ではない。政治的に変わる可能性もある」と草の根の上映運動を呼びかけ、すでにドイツ国内の映画館
110か所で上映されている。
「ウランを使用している人、使用している国は、もうそれだけで犯罪に加担していると言っていい。これから20年30年と原子力と共存するなんて考えられ
ません。フクシマの事故でもまだ“不十分”だとでも言うんですか」。監督の言葉は、ウランを輸入し続ける日本の私たちに原発廃絶への責任を問いかけてい
る。 (Y)
■東京・渋谷アップリンクで上映中。大阪・九条シネ・ヌーヴォで2月18日〜。

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