2012年03月16日発行 1223号

【がれき広域処理の問題点 放射能拡散させ復興予算奪う】

  野田政権は2月10日の復興庁発足を機に、宮城・岩手両県で発生した震災がれきの広域処理キャンペーンを強めている。だが汚染されたがれきの焼却は放射能 を拡散させる。地元で活用すべき復興予算の横取りにもつながりかねない。がれき受け入れ拒否こそ、汚染の拡散を止める道だ。

汚染がれきに広がる不安

 環境省は2月21日、東日本大震災で被災した岩手・宮城・福島3県沿岸部(福島の警戒区域を除く)のがれき処理状況を公表した。計2252万8千dのが れきのうち、埋め立てや再利用などの最終処分を終えた量は117万6千d(5%)にとどまった。同省は、岩手・宮城両県の木材がれき400万dを被災地外 で広域処理する方針で、全国に受け入れを呼びかけている。だが、実際に受け入れているのは青森県・山形県・東京都だけ。市町村に受け入れを要請しているの は10都道府県にとどまっている。放射能汚染されたがれき受け入れに対する住民の不安や反対の声を行政当局が無視できないからだ。

 政府のがれき処理方針(昨年6月23日)は、(1)福島県内の放射能汚染されたがれきのうち、可燃ごみは市町村の清掃工場の焼却炉で焼却、不燃ごみは除 染せず埋め立て処分、(2)岩手・宮城のがれきは広域処理、というもの。その後岩手・宮城でも牛のエサとなる稲わらから高濃度の放射能汚染が見つかった。 稲わらが汚染されている以上、がれきも同じように汚染されていることは間違いない。だが、政府方針はなんら変更されていない。

 放射能は除去できるのか

 環境省の説明では、不燃ごみや焼却灰などの埋め立てごみは1`当たり8千ベクレル以下ならば、また可燃ごみはこの基準に関係なく、バグフィルター(集塵 器)付きの焼却炉で燃やしてもいいという。だが、現行法で一般廃棄物として扱っていいのは、セシウムで1`当たり100ベクレル以下のものに限られる。埋 め立てごみの基準は、実にその80倍だ。福井県は「放射能物質の取り扱いについて国に異なる基準が存在する理由を明確に説明してほしい」と求めている。受 け入れ側の住民が不安を持つのは当然といえる。

 環境省の有識者検討会のメンバーである大迫政浩・国立環境研究所資源循環廃棄物研究センター長は「放射性汚染物を燃やしてもバグフィルターで99・ 99%除去できる」「煙突から放射性物質は出ない」と言い続けている。

 だが、これは喘息の要因とされた微細粒子を除去する実験結果を基にした類推でしかなく、ガス状になった放射性物質を本当に除去できるのかどうかは明らか になっていない。仮に99%除去できるとしても、除去した放射性物質が焼却炉内に蓄積していけば炉内は高濃度の汚染状態になっていき、放出される放射能量 も増えていくと考えられる。

 たとえ低線量であっても、焼却炉から放出され続ければ、内部被曝の危険性は高まる。「放射能の管理については拡散させないこと、飛散させないことが基 本」(山内知也・神戸大大学院教授)だ。

復興予算横取りの構図も

 広域処理には別の問題もある。すでに受け入れている東京都の例を見よう。

 東京都は9月28日、岩手県と災害廃棄物の処理基本協定を締結した。岩手の廃棄物は、鉄道で品川に到着後、都内の民間破砕施設に運ばれ、不燃物と可燃物 に分別され、可燃物は焼却施設で処理した後に、不燃物はそのまま東京湾の埋め立て処分場に埋められる。

 都環境局は10月に処理業者を募集したが、応募できるのは「バグフィルター及び活性炭吹込装置、もしくはバグフィルター及び湿式排煙脱硫装置」を備え、 「1日100d以上の処理能力を持つ都内の産業廃棄物処理施設で焼却すること」ができる業者でなければならないとされた。この条件を備える業者は、驚いた ことに東京電力が95・5%を出資する子会社「東京臨海リサイクルパワー」(社長は東電出身)1社だけだった。事業規模は2013年度までに計140億円 の見込みという。

 しかも、がれき処理の費用は岩手県に請求され、結局は国の復興助成金から支出される。原発事故を引き起こした東電の子会社が復興助成金を横取りし、儲け の手段とする構図がここにある。

注目すべき地元処理の動き

 広域処理ははたして被災地の総意なのか。放射能のレベルが本当に低いのであれば、がれき処理専用の仮設焼却炉を現地に作って処理するのが最も効率的だ。

 広域処理に回す予算を地元で使えば、セシウム遮断性にすぐれた機能を持つ焼却炉を建設することができ、その建設や運用で雇用を生み出すこともできる。が れきのうち放射能汚染の低い木材を使ってチップなどの燃料を作れば、資源の有効利用につながる。

 地元にがれき処理専用プラントを建設し自前で処理しようと考えて、県に断られた市がある。岩手県陸前高田市だ。現行の処理場の能力を前提にすれば、すべ てのがれきが片付くまでに3年はかかる。戸羽太・陸前高田市長は「市内にがれき処理専門のプラントを作れば、自分たちの判断で今の何倍ものスピードで処理 ができると考え、そのことを県に相談したら、門前払いのような形で断られました」(戸羽太『被災地の本当の話をしよう』)と語る。基礎自治体の創意ある取 り組みを国や県がつぶしているのだ。

 また仙台市は、神戸市の経験を踏まえ学者の協力も得て、現場で粗選別した後に市内3か所の搬入場で細分化し可能な限り資源化するとの基本方針の下、がれ きの整理・仮設置場の確保・処理施設の建設を進め、最終処分場も確保。4年分のがれきを14年3月までに自前で処理するめどをつけた(週刊金曜日12月9 日号の青木泰論文)。こうした動きを積極的に支援していくことこそ必要だ。

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 政府ががれきの広域処理にこだわるのは、「がれきが復興の足かせになっている」「東北復興のためには多少のことは我慢しなければ」と国民の情に訴え、低 線量被曝の容認を既成事実化するためだ。放射能汚染と被曝をさらに全国に拡散する広域処理の受け入れを止めよう。
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