2012年03月30日発行 1225号
【そうだったのか維新八策/実は新自由主義路線の再加速/橋下流リセットで総貧困化】
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橋下徹・大阪市長が率いる地域政党「大阪維新の会」の国政進出が取りざたされている。3月
10日には次期衆院選に向けた政策集「船中八策」の原案を公表した。政治不信が高まる今、橋下人気は全国的に広がっており、もはや大阪だけの問題ではな
い。維新版「船中八策」は何をめざすのか。「そうだったのか」形式で明らかにする。
財界の提言と一致
「船中八策」といえば、坂本龍馬が起草した新国家体制の基本方針が有名です。橋下は自分を龍馬になぞらえているのでしょうが、あまりのバカバカしさに政
策集の中味まで軽く見られがちです。
しかし、橋下はいたって本気です。維新版「船中八策」(以下、維新八策)は、外交・安全保障や憲法「改正」にまで踏み込んだ国家改造プランです。その内
容はグローバル資本の基本構想と一致しており、たんなる思いつきの羅列ではありません。
維新八策はその名のとおり、8つの分野の提言から成り立っています(表参照)。特徴的な個別政策を列挙すると、こうなります。
▽道州制、首相公選制の実現▽参院改革(廃止も視野)▽国民総背番号制の導入▽学校選択制、教育バウチャー制度の導入▽年金の積み立て方式への移行▽混
合医療解禁による市場メカニズム導入▽生活保護制度に関し、就労義務の徹底。医療費の一部自己負担▽経済活動の自由を重んじる▽徹底した規制緩和▽労働市
場の流動化▽TPP(環太平洋経済連携協定)参加など自由貿易圏の拡大▽税制の超簡素化▽日米同盟を基軸とする▽憲法9条について国民投票▽憲法改正要件
の緩和…。
いかがでしょう。グローバル資本が喜びそうな「改革」メニューがずらりと並んでいますね。それもそのはず、維新八策の骨格は財界団体が打ち出した各種政
策提言の引き写しです。その特徴は徹底した市場原理主義・規制緩和万能論にあります。
企業の利潤追求活動の妨げとなる規則や規制は(人権や健康を守るために必要なものであっても)すべて撤廃する。儲けの出る公共部門は私企業に売却。自己
責任を基本とし、福祉・医療予算は削減。そして企業の税負担を減らす…。
要するに、グローバル資本がカネ儲けをする自由を最大限に保障するということです(新自由主義路線)。
さて、あこぎな商売人には用心棒がつきものです。その役割を果たすのが軍隊です。憲法の制約を突破し、いつでもどこでも軍事力を行使できるようにするこ
とがグローバル資本の悲願です。橋下が改憲に言及し始めたのは、彼らへのアピールでしょうね。
既得権攻撃の狙い
「なんだ、小泉改革と同じことか」。ナイスな突っ込みありがとうございます。まさに、そのとおり。橋下がやろうとしているのは、小泉元首相が推進した
「構造改革」の再加速なんです。
ただし、小泉と同じ手法は使えません。小泉は「富める者が富めば、社会全体に自然に富が浸透する」と言ってカネ持ち優遇政策を正当化しましたが、それが
ウソだったことは現実が証明しています。新自由主義路線を再加速するには、人々をたぶらかす新たなペテンが必要です。
それが維新八策のキャッチフレーズである「グレートリセット」です。橋下はその意味をこう語っています。「既存の政党では既得権益に切り込めない。日本
を再生するグレートリセットを実現するための政策だ」(2/14読売)
衰退する日本を立て直すために、今の仕組みをガラガラポンする。既得権に安住している者からそれを取り上げ、皆を同じ出発点から競争させる…。いわゆる
創造的破壊というやつですね。
世の中を一新するためにぶっ壊すとは、まるでオウム真理教のハルマゲドン思想です。しかし、持たざる者にとって橋下流のガラガラポンは福音に聞こえま
す。社会の流動性が高まれば、自分たちにも浮上のチャンスが回ってくるのでは、というわけです。
そうした期待感を抱かせるのが橋下は実にうまい。何かに守られていると見える人たちに徹底的な攻撃を加え、引きずり降ろすさまを見せることで、「平等
化」を願う大衆の喝采を得る−−これが橋下政治の神髄です(公務員・労働組合攻撃が典型)。
ペテン師の手口
維新八策には「世代間格差を固定化させない」だの「親のお金はあてにしない」など、若者や貧困層からの支持獲得を意識した文言が並んでいます。もっと
も、これらの実行を橋下が真剣に考えているとは思えません。
資産課税の強化なんて、グローバル資本や富裕層が認めるはずないでしょう。維新の会幹事長の松井一郎・大阪府知事ですら、これに関しては「俺は持ってい
る資産を海外に移す」(3/5毎日夕刊)と反対しているぐらいです。
前言撤回は橋下の得意技。選挙に勝つためなら平気でウソをつく人間だということを忘れないでください。
* * *
自民もダメなら民主もダメ。既成政党に対するそんな不信感が橋下人気を全国区に押し上げています。
たしかに橋下はやり手の壊し屋です。でも破壊の後に何が残るのでしょう。「安定した公務員」を引きずり降ろしたところで、パイなんて回ってきません。資
本や当局に対して「弱い労働者」が増えるだけです。橋下流のリセット=既得権のはく奪とは総貧困化のことなんです。
新自由主義を売り込むペテン師。それが橋下です。ペテン師が奏でる笛の音に踊らされてはなりません。 (M)
【維新の会「船中八策」(骨子)】
●統治機構の作り直し
▽都市間競争に対応できる多様な大都市制度(大阪都構想)▽道州制の導入、地方交付税の廃止▽首相公選制の導入▽参議院改革
●財政・行政改革
▽国会議員定数と歳費の削減▽大阪府方式の究極の行財政改革
●公務員制度改革
▽総人件費の削減▽職員基本条例の法制化
●教育改革
▽学校選択制、教育バウチャー制度の導入
●社会保障制度
▽年金の積み立て方式への移行▽持続可能な生活保護制度
●経済・雇用政策・税制
▽徹底した規制緩和▽TPP交渉参加▽労働市場の流動化▽資産課税の強化
●外交・防衛
▽日米同盟を基軸▽沖縄の負担軽減
●憲法改正
▽改正要件(96条)を3分の2から2分の1へ。
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