2012年05月04・11日発行 1230号

【福島第1原発はいま 収束とはほど遠い現状 4号機倒壊なら関東は壊滅】

 野田政権は、福島第1原発事故はもはや収束したとして周辺地域への住民の帰還作業を進め、 原発再稼働へとつき進んでいる。だが、放射性物質のたれ流しは続いており、さまざまなトラブルが頻発している。大きな余震が来れば4号機の崩壊によって関 東一円が壊滅≠キる可能性も残されている。福島第1原発のいまをまとめてみた。


いまも放射能はたれ流し

 3月26日、東電は2号機の格納容器内に工業用内視鏡を差し込み、水位が格納容器の底から60aの高さしかなかったことを確認した。2号機は昨年の事故 当時、圧力抑制室付近で爆発音があったと報告され、圧力抑制室の一部が破損していると考えられてきた。今回の結果は、圧力抑制室の破損を裏付けるものだ。

 27日には格納容器内の放射線量を計測したが、壁から1b離れた位置で毎時73シーベルト(7万3000_シーベルト)を計測した。原発労働者の受容限 度は5年間で100_シーベルトとされるが、1時間でその730倍の放射線を浴びてしまうほどの高線量だ。


相次ぐ事故やトラブル

 1〜3号機は、圧力容器内にあるべき核燃料棒が溶けて格納容器内に落ちている上に、格納容器そのものや配管のつなぎ目などが破損しており、上から注水し た水はダダ漏れになっている。いったん建屋の地下にたまった放射能汚染水は、コンクリートのひび割れから海に流出していると考えられる。また、大気中に放 出されている放射性セシウムの量だけで、現在でも毎時1000万ベクレルにのぼる。放射性物質のたれ流しは今も続いているのだ。

 建屋の地下にたまった放射能汚染水は「循環注水冷却システム」の浄化装置で濾過(ろか)され、再び注水用に使われている。だが、循環の途中は塩化ビニー ル製のホースでつながれており、そのホースがひび割れたり、雑草がホースを貫通したり、ホースのつなぎ目がゆるんで汚染水が漏れるなどの事故が続発してい る。溶け落ちた核燃料を取り出す展望は全くなく、ひたすら冷却のために汚染水の浄化を続けるしかない。その間ホースの破損が起きるたびに汚染水は漏れ出す ことになる。

  窒素封入停止が頻発

 現在、水素爆発を防ぐために1〜3号機の格納容器に窒素を封入しているが、その封入装置が3月からの1か月で4回も停止している。強風で砂やほこりが舞 い上がり、装置のフィルターが目詰まりを起こしたのが原因だという(4/5朝日)。停止のせいで1号機では格納容器の温度が5度ほど上昇した。この窒素封 入も今後何年にもわたって続けていかなければならない。

 政府・東電は「冷温停止状態」などと言っているが、実際には注水を継続的に行なうことでかろうじて温度を100℃以下に保っているにすぎない。

 たまり続ける放射能汚染水

 東電によると、第1原発内の放射能汚染水は処理済み分も含めれば約20万立方b(ドラム缶換算で約100万本分)にものぼる。東電はこれらを保管する仮 設タンクを16・5万立方b分確保し、さらに4万立方b分を建設中だ。だが、それでも秋までには満杯になる見通しだ。循環式の注入装置を立ち上げているの に、なぜ汚染水が増えるのか。

 それは、雨水や地下水が建屋地下に流れ込んでくるからだ。汚染水を多く回収すると水圧が変化し、その分地下水が流入するため、いつまで経っても水が減ら ない。当初の工程表では今年の1月までに「汚染水を処理し減少させる」予定だったが、昨年末の工程表では汚水処理の終了は2020年度へと大幅に先送りさ れた。

 汚染水処理に伴って発生する高線量の放射性廃棄物もたまる一方だ。2月21日時点で放射性セシウムを吸収した使用済みフィルターが385本、放射性汚泥 が581立方bで、これらは今後も増え続ける。

一番こわい4号機の倒壊

 原子力研究者らが最も懸念しているのが4号機だ。事故当時、4号機は定期検査中で圧力容器内に核燃料はなかったが、使用済み核燃料プールの中には 1535本(通常の2・5倍)の使用済み核燃料が入っていた。4号機でも水素爆発が起こり、建屋が吹き飛んだだけでなく、プールの下の階も破壊されてし まった。

 4号機の使用済み核燃料はプールに張られた水だけで大気と隔離されているだけの状態だ。もし大きな余震で4号機が崩壊すれば、プール内の燃料棒が地面に 放り出され直接大気と触れることになる。その際の放射線量はいまとは比べものにならないほど高くなる。

 政府内には、4号機の核燃料が溶けた場合は半径250`まで(横浜も含まれる)避難が必要になるという「最悪のシナリオ」が存在していた。当初、米国政 府が日本政府の勧告よりも広い80`までの避難を提言した背景には、4号機への懸念があったといわれる。東電もプールが崩れ落ちるのを心配して応急補強工 事を行なったが、大きな余震が来た時にはたして4号機は耐えられるのだろうか。

 4号機の燃料プールの冷却が停止する事故もたびたび起きている。直近では4月12日にプールの循環冷却装置が止まるトラブルが起きた。停止によりプール の温度は上がるので、停止時間が長く続くようなことがあれば危険な事態になる可能性がある。

 工程表では13年度中に4号機の燃料プールの燃料回収を始めることになっているが、そのためには崩れ落ちたクレーンに代わる新しいクレーンを設置しなけ ればならず、その作業自体が難題だ。



 帰還作業や再稼働は無謀

 福島第1原発の現状は、収束とはほど遠い。ところが政府は、昨年末に事故の収束を宣言し、「警戒区域」「計画的避難区域」を「帰還困難区域」(50_ シーベルト超)「居住制限区域」(20〜50_シーベルト)「避難指示解除準備区域」(20_シーベルト以下)の3区域に再編することを決めた。

 それに基づいて4月1日に田村市と川内村が、16日には南相馬市が3区域に再編され、「避難指示解除準備区域」への帰還作業が始まった。

 大きな余震が来れば4号機建屋が崩壊し、関東一円が避難対象となる可能性もある。1〜3号機についても、今も水素爆発や水蒸気爆発の危険性はなくなった わけではない。原子炉内の状態は誰にもわからないのが実態なのだ。にもかかわらず政府はなぜ住民の帰還を急ぐのか。

 それは、福島事故は過去のものというイメージをつくり、再稼働・原発維持につなげるためだ。

 政府は、多くの国民の不安に応えず、即席「安全基準」を決め、停止中の原発の再稼働を強行しようとしている。命よりもグローバル資本の意向を優先する大 飯原発の再稼働を阻止し、稼働原発ゼロを実現しよう。
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