2012年05月25日発行 1232号

【映画紹介/塩花の木々、希望のバスに乗る。U/ザ・フル・プロダクション制作 オ・ソヨン監督/なかまユニオン執行委 員長 井手窪啓一】

 「第4回戦争と貧困をなくす国際映像祭」で上映され、感動を呼んだ韓国のドキュメンタリー 映画『塩花の木々、希望のバスに乗る。U』(ザ・フル・プロダクション制作/オ・ソヨン監督)。作品の見どころを登場人物のひとりでもある井手窪啓一・な かまユニオン執行委員長が語る。

 2011年1月6日、プサンにある造船会社「韓進(ハンジン)重工業」で、ひとりの女性労働者が高さ35mのクレーンに登り、そのまま立てこもった。彼 女の名はキム・ジンスク。目的は、400名整理解雇の撤回を社会にアピールすることだった。

 労働組合として長期のストを構えても整理解雇を阻止できず、最後の闘争手段としてキム・ジンソクさんは自分の生命をかけた。最初は孤立した闘いだった。 だが、彼女の叫びは、クレーン上からツイッター等を通じて多く人びとに伝わり、支援の輪が広がった。整理解雇と非正規職のない社会をめざす「希望のバス」 と呼ばれる連帯行動が取り組まれ、韓国全土から広範な市民が籠城現場に駆けつけた。本作品は、この争議を勝利和解に導いた「希望のバス」運動の記録第2弾 である。

 作品中のインタビューで初めて知ったが、キム・ジンスクさんは300日を超える籠城闘争中、死ぬことばかりを考えていた時期があったという。死を思いと どまらせたのは、雨の日も風の日もクレーンの下に駆けつけた市民の姿だった。闘いが連帯を生み、連帯が希望を生み、そして生きる力となった。

連帯と希望の映像

 さて、本作品にはなかまユニオンのメンバーが全編にわたって登場する。私以外の参加者は、解雇された組合員やパワハラを受けて休職中の組合員だ。このこ とには大きな意味があった。

 日韓の参加者は、お互い初対面であっても、資本の攻撃に現に苦しみながら闘っている当事者同士。現地では、深い交流が実現した。なかまユニオンの若い組 合員の発言に注目してほしい。「ここに来て、たくさんの人が解雇争議とか闘っているのが分かった。しんどいのは自分だけじゃないと実感して元気になりまし た」

 彼らは理不尽な理由で解雇され、パワハラによりうつ病発症に追い込まれた。「敗北は自己責任」と切り捨てる昨今の風潮が彼らを孤立化させ、苦しめてき た。

 だが、キム・ジンソクさんがたったひとりで始めた闘いは、多くの人びとの共感を生み、社会を動かし、ついに勝利を勝ち取った。連帯が希望を作りだすこと を「希望のバス」運動は証明した。

 本作品は「連帯と希望」の映像である。私たちが現地で体験したことを、映像を通して皆さんにも実感してほしい。非正規職のない、人間らしく働ける世界を 築くために。

   *  *  *

 近く増補版が完成予定。作品についての問い合わせは、なかまユニオンまで。06−6242−8130


ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS