2012年06月15日発行 1234号

【本当のフクシマ/原発震災現場から/第11回/「食べて応援」というけれど/農家に冷たい福島県政】

 私の最も嫌いな言葉に「風評被害」がある。別に放射能汚染に限らず、あらゆる農薬・汚染物 質の被害がこの言葉を使うだけで「根拠なく騒ぐ消費者が悪い」 に変わってしまう。どんな責任も市民に転嫁できる、支配層にとって「魔法の言葉」だ。だからこそ政府・マスコミはこの言葉を好んで使う。

 「風評被害」に被災地が「団結して立ち向かう」ためには「食べて応援すること」が大切らしく、飽きもせず「食べて払拭! 風評被害」が繰り返される。だ が、国や県はそんなキャンペーンを張れるほどこれまで福島県の農業を大切にしてきたのか。

 ここにひとつのデータがある。2005年版「農業センサス」によると、人口200万人の福島県には約8万戸の販売農家がある。その農業生産額は2500 億円。隣の山形県が5万戸の農家で2千億円の生産をあげているのと比べると、明らかに少ない。

  山形だけではない。愛知県でも農家戸数は5万1千戸と福島の6割なのに、福島を上回る3200億円もの農業生産をあげている。

主要都道府県の販売農家戸 数、農業生産額
  販売農家戸数 農業産出額
  (戸) (億円)
北 海道 1,963,424 86,509
   
山 形 49,013 2,097
福 島 80,597 2,505
茨 城 84,845 4,284
   
静 岡 45,954 2,281
愛 知 51,638 3,210



注)販売農家戸数は2005年農業センサスより。
農業産出額は2009年度。
※静岡は、福島の半分の農家戸数で福島とほぼ同じ農業産出額。

  データが示すのは、他県に比べて農産物のブランド化が遅れ、農業構造も小規模零細経営が多く不安定という事実である。

  要するに福島県は、「農家の創意工夫」に任せるだけで、農業経営の改善を援助し安定化させる努力を他県よりも怠ってきたのである。こうした事実を前にして 「風評を食べて払拭」と言われても、県民はしらけるばかりであろう。

  農水省発表の2012年版食料・農業・農村白書が震災から1年後(12年3月時点)における被災農家の営農再開状況をまとめている。それによると、3万8 千戸の被災農家のうち7割が営農を再開。岩手では95%が再開したのに対し、福島は34%。津波被害が激しかった沿岸部だけの比較でも、宮城45%に対し 福島17%。この原因が原発事故にあるのは明らかだ。

 戦後の農地解放は、奴隷のような小作制から農民を解放した。一方で「作れなければ直ちに収入が途絶える」という自営農家特有の不安定さが続いてきた。こ れを裏付けるのが、原発事故後の福島県内の自殺者の多くは耕作の道を絶たれた自営農家だという事実である。

 佐藤雄平知事に私は言いたい。なぜ農家への補償や、代替農地(汚染がまだ比較的少ない会津地域なら不可能ではない)のあっせんといった具体的な救済策を 講じないのか。くだらないキャンペーンで消費者に責任転嫁している場合ではない。 (水樹 平和)
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