2012年09月28日発行 1249号

【原発労働/多重下請け ピンハネ9割/違法状態放置する東電・政府】

 「線量計に鉛カバー」(7/21朝日)「事故直後線量計つけず4割」(9/4朝日)。福島 第1原発事故後の作業にかかわる労働のとんでもない実態が報道されている。その根本には、原発労働を人権無視の違法な非正規労働にゆだねてはばからない東 京電力・政府の姿勢がある。

多重派遣を告発

 7月26日、福島事故の収束作業にたずさわった長崎県出身の労働者が、下請け上位の日栄動力工業(東京都港区)を、職業安定法と労働者派遣法に違反する 多重派遣をしていたと東京労働局に告発。さらに多重派遣のほか約束された賃金が支払われていないと長崎県内の下請け会社4社を長崎労働局などに告発した。

 労働者は昨年7月1日〜8月9日、福島第1で事故収束作業に従事。仕事を紹介し給料を支払っていたのは前田工業(長崎県松浦市)だが、放射線管理手帳上 の所属会社は大和エンジニアリングサービス(同佐世保市)になっていた。両社の間には、佐世保市の創和工業と福田工業が介在し、上には日栄動力工業がある 複雑な下請けの流れになっていた。
 大和エンジニアリングは日当と危険手当の計2万4千〜2万5千円を下請けに支払ったが、労働者には1万1千円しか支払われていなかった。

20次下請けも

 このような原発労働の多重構造について、福島県いわき市の渡辺博之市議が「原発労働問題シンポジウム」(11年8月・日弁連)で詳細に報告している。福 島原発の場合、重層的下請構造とは次のようなものだ。

 原発構内作業は、東電から日立、東芝などプラントメーカーなどの他、東電工業、東京エネシス、東電環境という下請の企業に発注される。この下に2次、3 次下請となる『常駐下請』の企業がそれぞれ20社ぐらいずつぶら下がる。さらに、4次下請としてパイプやバルブ、電気など固有の技術力を持つ地元の専門業 者が、5次下請となる人夫出し業者(派遣会社)を経由して必要なだけの作業員をかき集めている。

 それでも人を集めることができなければ、6次、7次の下請となる人夫出し業者から作業員を集めることになり、場合によっては20次下請ぐらいまでがつな がる。5次下請以下になると、下請の順位はその都度入れ替わったり、派遣会社から派遣会社への多重派遣というのも日常的に行われている。

 東電から労働者への日当が多い場合1人10万円ぐらい出ているが、この重層的下請構造の中で中間搾取され、4次、5次下請労働者で日当8千円、さらに末 端では6500円程度になる。底辺の原発労働者に対するピンはね率は9割を超えている。

 渡辺市議は「必要なときだけ多数の原発労働者を集めるために重層的下請構造が利用されている」と告発する。

 この多重構造の下で、人夫出し業者には暴力団などが関与する場合が多い。福島県警は5月22日、住吉会系暴力団幹部を福島第1原発の復旧工事現場に組員 を違法に派遣したとして労働者派遣法違反容疑で逮捕した(5/22毎日)。

 事故の収束作業でも、構造は何ら変わっていない。

契約で口止め

 原発作業に従事する労働者は、日々命を削られ、人権を蹂躙されている。

 2011年8月上旬に致死量を超す放射能10シーベルトが敷地内で発見された時も、働いていた労働者は後にテレビ報道で知ったという。

 過酷な被曝労働にもかかわらず、契約時には「この契約により本業務を行うに当たり、福島第1原発構内外に関わらず、知りえた情報に関して(書面、あるい は口頭・目視など形態に係わりなく)厳に秘密を保持するものとする」「作業員は各種報道機関からの取材は、業務情報の如何にかかわらず一切受けないものと する」という誓約を強要される。日給は約1万円だが、危険手当(1時間1千円)を得るには「後で病気になっても訴えを起こさない」という同意書にサインし なければならない。

 ところが、原発労働者の実質上の雇用主である東電は「下請け会社が作業員と結んでいる契約の内容は知らない」とうそぶいている。

 原発労働は建設作業であり、本来派遣労働はできない。違法の偽装請負や多重派遣、でたらめな中間搾取はただちになくさなければならなず、労働者の健康被 害を闇に葬らせてはならない。

 違法不当な実態を放置し是正しようとしない東電・政府を追及しよう。


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