2012年10月12日発行 1251号

【推進派で固めた規制委・規制庁が発足 新「安全基準」での原発推進が任務】

 9月19日、原子力の安全規制を担当する原子力規制委員会とその事務局の原子力規制庁が発 足した。だが規制の名とは裏腹に、その任務は「政府から独立した規制組織」を錦の御旗に原発を推進することにある。

推進派委員長に巨大権限

 新しく発足した規制委員会は、行政組織法第3条に基づく「3条委員会」として政府からの独立をうたい文句とするが、環境省の外局という位置づけだ。

 規制委員会は、これまで内閣府・経産省・文科省などに分散していた原発規制に関わる権限・業務を一元化する巨大な権限を持つ。その委員会を仕切るのが5 人の「専門家」だ。野田政権は、違法を承知の上で、首相権限で発令を強行した。

 委員長(任期5年)には田中俊一・元日本原子力学会会長、任期3年の委員に中村佳代子・日本アイソトープ協会主査と更田豊志・日本原子力研究開発機構副 部門長、任期2年の委員に島崎邦彦・前地震予知連絡会会長と大島賢三・元国連大使がそれぞれ任命された。

 田中委員長はもともと「原子力ムラ」の中心的な存在だ。福島事故直後から、福島県除染アドバイザーを務めており、その「避難より除染ありき」の姿勢は厳 しく批判されている。また原子力損害賠償紛争審査会の委員として、区域外避難者への賠償に反対し、年20_シーベルト未満の地域への帰還を主張してきた。 就任後の記者会見でも、「原子力という科学技術は今後、人類が生きていくうえで非常に大事な技術」と述べ、原発を推進する立場を鮮明にしている。

 原発や放射線関係の「専門家」は3人とも原子力ムラの一員であり、国民が願う原発の安全性評価などは期待できない。地震の「専門家」・島崎委員も、電力 会社から報酬や講演料を受けていたことが明らかになっている。

 野田政権が国会同意もなしにこの人事を強行したのは、巨大な権限を持つ委員会を原発推進派の手に委ねるためだ。

保安院などから横すべり

 規制委員会の事務局として発足した原子力規制庁は、経産省原子力安全・保安院、内閣府原子力安全委員会の事務局、文科省の関連部局を統合した組織(定数 473人)だ。19日には保安院から約350人、安全委員会から約40人、文科省から約40人が横すべりで発令された。つまり、ウソで固めた「安全神話」 の元凶の一つであり、福島事故の戦犯でもある組織が看板を掛け替えたにすぎない。来年4月には、経産省所管の独立行政法人「原子力安全基盤機構」も合流す る予定で、将来的には1千人の巨大組織になる。

 しかも、幹部は原発を推進してきた人物のオンパレードだ。

 環境省出身の森本次長は初の定例会見で、重大事故が起きた場合などに委員を補佐する「対策委員」について「専門家であれば、電力会社などに所属する原発 推進派でも問題ない」と発言している。

 安井緊急事態対策監(経産省出身)は資源エネルギー庁原子力政策課長などを歴任。3人の審議官には経産省から2人(いずれも保安院出身)、文科省から1 人が就任した。

 黒木原子力地域安全総括官(警察庁出身)は、規制組織のあり方について「原子力に反対する人も入るのは、日本の場合、考えにくいのでは。一定の結論を導 き出す議論ができるのか」(9/20中国新聞)と発言した人物だ。

 そうした幹部の下で働く職員も大半が「原子力ムラ」の息のかかった職員だ。規制庁職員には出身省庁との人事異動を禁止する「ノーリターン・ルール」が適 用されるというが、発足から5年間は例外規定が設けられている。

 原子力規制庁は「原子力寄生庁」と抗議行動参加者から批判されたように、まるで「原子力推進庁」のような陣容で出発したのである。


「規制」の名で推進へ

 大飯原発の再稼働の際、政府は「安全かつ必要な場合のみ再稼働する」とした。ところが古川国家戦略相は新エネルギー戦略についての記者会見で、「再稼働 前に需給を検証しないのか」との問いに、「原子力規制委員会が安全と判断すれば再稼働する」と答えている(9/15東京新聞)。「電力不足」のウソがばれ てしまった今、政府は規制委員会に安全と判断させ、電力需給に関係なく再稼働できるシステムに持っていきたいのだ。

 田中委員長は、政治からは独立して安全性を判断するという建前を逆手にとり、再稼働や稼働延長を進めようとしている。

 すなわち、野田政権が新エネルギー戦略で示した「40年廃炉」の原則については「40年を超えても、安全性に問題がなければ規制委としてはOKを出す」 (9/20東京新聞)と明言し、「原発の新増設はしない」との原則についても、設置許可申請があれば審査するとの立場だ。

 その一方で、大飯原発3、4号機の再稼働について田中委員長は「(国が)政治判断として福井県やおおい町と相談して決めたことなので、すぐに止めること はしない」(9/22朝日)と稼働中止を拒んだ。政府がゴーサインを出したJパワー(電源開発)の大間原発(青森県大間町)の建設工事再開についても、森 本規制庁次長は「待ちなさいということはない」(9/29毎日)と政府の決定を追認した。

 規制委員会の「任務」は、「独立」の看板で国民の批判をかわしながら、新たな「安全基準」に基づいて原発を推進することにある。

 違法な規制委員会人事の撤回を求めるとともに、規制委・規制庁に対する監視を強め、大飯3、4号機の停止と他の原発の再稼働断念を迫っていかねばならな い。


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