2012年11月23日発行 1257号

【活断層か 地すべりか?/大飯原発現地調査 結論出さぬ原子力規制委/政府指針でも活断層は明白】

 関西電力大飯原発(福井県)の敷地で見つかった「地盤のズレ」が活断層なのか、地すべりな のか―原子力規制委員会の専門家会合はさらに追加調査を求め、結論を先送りしました。実は、国の定めた「安全審査の手引き」に従えば、すでに結論は出せる のです。でも規制委にはどうしても結論を出せない理由があります。何でしょうか。

無理な地すべり説

 原子力規制委員会が大飯原発でやるべきことは、敷地の中を走っている「F6」と名づけられた断層が関西電力の言い分どおり古くて動かない「破砕帯」なの か、地震時に動く「活断層」なのかを判断することでした。

 規制委は、「日本活断層学会」や「日本地質学会」などの学会から推薦された学者・研究員4人と規制委の島崎邦彦委員長代理(地震学)の5人で調査団を作 りました。調査団が11月2日、関西電力の掘ったトレンチ(大きな溝)の中などで直接地層を観察したところ、関電がこれまでF6断層があると想定していた 位置とは違うところに断層が見つかりました。

 4日に行われた検討会ではこの断層が活断層かどうかに議論が集中しました。変動地形学を専門とする東洋大学渡辺満久教授は「明らかに活断層」との見解を 表明しましたが、元活断層学会会長の立命館大学岡田篤正教授は「地すべりの可能性もある」と違う見方を示しました。

 「地すべり」説と「活断層」説にどんな違いがあるのでしょう。地すべりは、土や岩がある面(すべり面)を境にして、塊のまま滑り落ちることです。地震を 引き起こす地殻プレートの運動など別の力が原因となって起こる活断層とは違い、自分の重みが原因なので大規模にはならないという意味を込めて使われていま す。つまり「地すべり」説は、F6断層とはつながらず、F6断層は小規模なものという結論にたどりつくのです。

 渡辺教授は地盤がずり上がっている証拠を示し「地すべり」説の矛盾を指摘しました。信州大学の廣内大助准教授も同様に「地すべりとの説明は不可能」との 見解を述べました。残る産業技術総合研究所の重松紀夫主任研究員は「地すべり」説を否定しませんでした。2対2で真っ二つです。

 やはり決め手がなかったのでしょうか。


グレーなら活断層

 規制委は調査団をつくる時、活断層かどうかを判断するための基準を示しています。「判断にあたっては、現行の『発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指 針』、『(同)安全審査の手引き』、東北地方太平洋沖地震を踏まえた原子力安全委員会によるこれらの改訂案などを総合的に勘案した上で、現地調査団による 確認結果を踏まえ、当委員会で行う」

 では「安全審査の手引き」にはどう書かれているか。「耐震設計上考慮する活断層の認定」という項目から関係する表現を抜き出してみます。(1)調査結果 の精度や信頼性を考慮した安全側の判断を行うこと(2)適切な地殻変動モデルによっても、断層運動が原因であることが否定できない場合は活断層を適切に想 定すること(3)地下の断層の位置や形状は、…矛盾のない合理的な説明ができること、…とあります。つまり、たとえ地すべりだとしても断層運動が否定でき ない場合は、安全側、つまり「活断層あり」と判断することになっているのです。

 第1回検討会で確認されたことを見ましょう。座長役の島崎委員長代理のまとめは「12万5千年前以降のすべりがあって、活断層によるものと考えても矛盾 はないが、地すべりの可能性が否定されているわけではない」です。どうでしょう。「安全審査の手引き」に基づけば、活断層だと認定しなければならないはず です。にもかかわらず、自ら示したルールに従うことをかたくなに拒んだのでした。

原発ゼロを回避

 2回目の会合が7日に開かれました。この日の会合は驚きです。「地すべり」説を強く主張した岡田教授が「わたしは地すべりの専門家ではない」と言い出 し、地すべり説をほうりだしてしまいました。また、調査を始める前、「グレーでも活断層」との立場を表明していた島崎委員長代理は「全員一致」でないと 「活断層」との結論は出さないと譲らなかったのです。そして「もう少し穴を掘るなど追加調査が必要」と強引にまとめてしまいました。

 結着がつくまで掘り続けることになるのでしょうか。そうなれば、半永久的に調査は終わりません。断層のすべてを見えるように掘ることはできないからで す。次はいつ専門家会合が開けるのか、そのめども決まりませんでした。この動きは、結論の先延ばしとしか考えられません。

 活断層だと認定するのに改めて調査することは全く必要ありません。ところが、規制委が「活断層あり」と結論を出せば、政府は大飯原発を止めなければなら なくなります。

 政府・電力資本にとって、大飯が止まり再び稼働原発ゼロの状態となるのは絶対に避けたい。そうなれば、大飯に続く再稼働はできなくなるし、世界に原発を 輸出するのにきわめて都合が悪い。これが、規制委(=原子力ムラ)が結論を出さない理由です。


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