2012年12月07日発行 1259号
【どくしょ室/低線量汚染地域からの報告 チェルノブイリ26年後の健康被害/ 馬場朝子 山内太郎著 NHK出版 本
体1400円+税/子どもたちの深刻な実態】
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東日本大震災の直後の2011年4月、「チェルノブイリ事故から25年―未来の安全」と題
した報告書(「ウクライナ政府報告書」)が発表された。この報告書によれば、原発周辺の高汚染地域からの避難民のうち、慢性疾患を持つ人は1988年には
31・5%だったのが、2008年には78・5%に増加した。事故から25年も経つのに健康被害は広がる一方だ。
UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)は、除染作業者の白血病と白内障、小児甲状腺がん以外の病気については、チェルノブイリ原発
事故の放射線による影響を認めていない。ウクライナの医師や専門家は、国際機関が要求する疫学的証明はそもそも不可能であると批判し、原発事故関連の疾病
被害は膨大な数にのぼると主張している。
本書は、ウクライナ政府報告書をきっかけに著者たちがウクライナを取材した内容をまとめたものである。
ウクライナでは、年間5ミリシーベルト以上の地域を住んではいけない場所(「強制避難地域」と「強制移住地域」)、それ以下の地域を住んでよい場所
(1〜5ミリシーベルトの「移住勧告地域」と0・5〜1ミリシーベルトの「放射線管理地域」)に分けている。「移住勧告地域」は希望すれば移住が認められ
る。
著者たちが取材したのは、チェルノブイリ原発から140`の距離にあるコロステン市。同市は「移住勧告地域」と「放射線管理地域」が混在する低線量汚染
地域で、現在の空間線量は毎時0・2マイクロシーベルト前後だ。
甲状腺がんは事故の4年後から増え始めた。事故前はウクライナの子ども人口1200万人に対して年間4〜5症例だったが、年々増え続け、今では年間
600症例にも達する。
リウマチ、リンパ腫、白血病、白内障などの疾病も増えている。白内障についてWHO(世界保健機関)は250ミリシーベルトを「しきい値」とするが、ウ
クライナ政府報告書はもっと低い線量でも発症すると指摘する。子どもの水晶体異常(白内障の前段階)は年間5ミリシーベルト以下のオブルチ地区で1千人あ
たり234人、年間1ミリシーベルト以下のボヤルカ地区でも149人にのぼる。
さらに衝撃的なのが、事故後に汚染地帯で生まれ育った第2世代の健康状態だ。慢性疾患を持つ第2世代は78%に達する。ある学校では、甲状腺などの内分
泌疾患が48%、背中に異常がある肉体発達障害が22%、目の障害が19%にのぼる。正規の体育の授業を受けられるのは、全校生徒485人のうちわずか
14人だけ。
ウクライナの実態を知れば、福島の避難基準20ミリシーベルトがいかに高いかがわかる。改めて低線量被曝の恐ろしさを考えさせてくれる本である。
(U)
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