2013年02月01日発行 1266号
【原発推進シフトの安倍内閣 再稼働から新増設まで狙う】
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福島第1原発からは、いまだに大気中や海中への放射性物質の放出が続いている。安倍内閣
は、原発事故などなかったかのように原発推進派で固め、少なくとも建前は「脱原発依存」だった民主党政権の方針を転換し、原発を復権させようと画策してい
る。だが、思惑どおりには進まない。
原発推進派の官僚を起用
安倍晋三首相の原発推進姿勢は、閣僚人事や政府諮問機関人事に端的にあらわれている。
経済再生担当相に就任した甘利明は、第1次安倍内閣(06〜07年)の経済産業相として「原子力立国計画」を推進した人物だ。また、原発ゼロを求める民
意を「集団ヒステリー」と評した石原伸晃を環境相兼原発担当相にすえた。
首相の手足となる秘書官には経産省から2人を起用。政務秘書官に就任した今井尚哉・前資源エネルギー庁次長は、第1次安倍内閣で事務秘書官を務め、昨夏
の大飯原発再稼働にあたって地元調整役を担い、橋下大阪市長と密会した。事務秘書官になった柳瀬唯夫・経済産業政策局審議官は、小泉内閣時に原子力政策課
長として将来の原発比率を40%以上に高める「原子力立国計画」を取りまとめた。
再開された経済財政諮問会議(議長・安倍首相)の民間委員には、原子炉メーカーの代表として佐々木則夫・東芝社長を、また東京電力の社外取締役を務める
小林喜光・三菱ケミカルホールディングス社長を起用した。
こうした安倍内閣の原発推進に期待を寄せるのが財界だ。経団連の米倉弘昌会長は「前政権の戦略(2030年代に原発稼働ゼロ)はぜひ抜本的に見直し、成
長戦略と一体で考えてほしい」と期待する。
福島事故に責任負う安倍
安倍は民主党の「2030年代に原発ゼロをめざす」方針を「無責任」と批判し、見直す考えを表明している。
年末に地元の山口県を訪れた際には、民主党政権が決めた中国電力上関原発の建設計画凍結方針をいったん白紙に戻し検討し直す考えを示した。その後テレビ
のインタビューでは、「新たにつくっていく原発は事故を起こした第1原発のものとは全然違う」と述べ、新たな「安全神話」を振りまいている。経産相に就任
した茂木敏充も、新増設が計画されている12基の原発のうち上関など未着工の9基の建設について「今後の大きな政治判断」と述べ、民主党政権の凍結方針を
白紙に戻す可能性に言及した。
だが、新増設推進への転換はそう簡単なことではない。自民党と連立を組む公明党は衆院選で「原発ゼロ」を主張しており、山口那津男代表は「(新増設は)
到底国民の理解は得られない」と否定的だ。また、東北電力の浪江・小高原発の新設計画がある福島県浪江町の馬場有町長は「事故原因すらはっきりしないの
に、新たに原発をつくるなんて納得できない」と憤る。
安倍首相は、福島第1原発事故に直接的責任を負っている。第1次安倍内閣当時、吉井英勝衆院議員(共産党)が質問主意書を提出し、地震による送電鉄塔の
倒壊などで外部電源が失われ内部電源(ディーゼル発電機や非常用電源)も動かなくなった場合、機器冷却系が動かずメルトダウンする危険があると指摘。ス
ウェーデンの原発で2系列の非常用電源が同時に故障した例をあげ、日本の全原発の状況についてただした。安倍内閣の答弁書は、スウェーデンとは「異なる設
計になっている」ので「同様の事態が発生するとは考えられない。原子炉の冷却ができない事態が生じないよう安全の確保に万全を期す」として、吉井議員の警
告を無視した。
この時、調査をし直し抜本的対策を講じていれば、今回のメルトダウンという事態は避けられた可能性がある。安倍は福島事故の重大戦犯≠ナあり、その責
任に頬かむりして原発推進の旗を振ることは許しがたい。
強まる再稼働への圧力
当面の焦点は現在停止中の原発の再稼働問題だ。いま唯一稼働している大飯原発3、4号機が危険を抱えたまま稼働を続けたとしても、8月には定期検査の時
期を迎える。再稼働するには新しい安全基準が必要で、原子力規制委員会は7月までにつくるとしている。それから1か月で別の原発の審査を終え、再稼働の
ゴーサインを出さない限り、再び全原発停止となる。
安倍首相は再稼働について、「規制委が厳しいルールをつくり、3年間で稼働すべきかどうか判断を進める」と語り、規制委が「安全」と認めた原発から順に
動かす考えを示した。それに対し財界は「この1、2年が一番大切。3年では先送りの発想につながる」(佐藤茂雄・大阪商工会議所会頭)と前倒しでの再稼働
を要求している。
一方、原子力規制委員会の田中俊一委員長は1月9日、「36か月(3年)で50基を審査すると、1基あたり20日で、常識的には難しい」「3、4日で
『はい、OK』とはいかない。どんなに早くても1基に最低半年や1年はかかる」と述べた。独立性の強い3条委員会を要求したのは当時野党だった自民党であ
り、規制委の方針が意にそわなくても露骨に介入することは難しい。
田中は原子力ムラと手を切ったわけではない。「最大の課題は原子力行政が国民の信用を全くなくしていること。…敦賀原発や東通原発などで一定の前進をし
ており、規制委の立ち位置を国民に示すことができつつある」(12/30産経)と語るように、規制委の使命は原子力行政の「信用」を取り戻し再稼働に踏み
出すことにある。
敦賀原発と東通原発では「活断層」で専門家の意見が一致しているのに大飯原発で意見が割れているのは、「唯一稼働している大飯原発を止めるな」という強
い圧力があるからだ。座長の島崎邦彦委員長代理は「全会一致でないと活断層との結論は出さない」として結論を先延ばしにしている。
だが、「(活断層の疑いが)クロや濃いグレーなら運転停止を求める」(田中委員長)のが規制委本来の方針のはずだ。詳しい調査が必要なら、いったん原発
を止めてから時間をかけて調査するのが筋だ。大飯原発は即時停止させなければならない。
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