2013年05月03・10日発行 1279号

【東京ZENKOへ加速 進む取り組み高まる期待 「若い人は戻ってこない」 福島県飯舘村を訪問】

 2013東京ZENKO実行委員会は4月20日、村の大部分が「居住制限区 域」に指定されている福島県飯舘村を訪ねた。

 「お客様にごあいさつを」と声をかけられ、横たわった馬が上半身を起こす。手綱を握るのは、牧場を営む細川徳 栄さん(61)。

相次ぐ馬の異常死

 2011年5月に全村避難した飯舘村だが、細川さんは村にとどまっている。

 「じいちゃんの代から馬に食べさせてもらった。いま原発事故で逃げていくことは卑怯でしょ。だから馬と一緒に 死ぬつもりです」

 細川牧場は馬を調教し、レジャーセンターなどに販売してきた。乗馬体験やイベント、テレビドラマに使われる馬 もいた。原発事故後、87頭を無償で“里親”に提供したが、今も約30頭が残る。

 経済的負担は大きい。月100万円でアメリカから輸入する牧草など、事故後のエサ代は7千万円に上る。東電か らの賠償金月10万円はガソリン代にしかならない。義援金などでしのいできたが、最近はそれも少なくなった。東 電に対する2億1千万円の賠償請求も未解決だ。

 「そんなに大変なら殺処分しては」という保健所の提案を細川さんは拒否。一行に「あいさつ」した馬も、殺処分 させないために2年がかりで芸を仕込んだ。顔を手綱で地面まで下げて口笛を吹くと、リズムに合わせて足踏みしな がら歩幅を縮め、ついには前脚を折りたたみ、横たわる。

 寝かせることで、障がい児も乗馬しやすくなる。ショーでは、横たえた馬に毛布をかけ、ドリフターズ・加藤茶の 「ちょっとだけよ」をまねた演出で観客を笑わせる。

 「世の中の役に立てば殺処分されないからって毎日言って聞かせて仕込んだ。馬も涙を流して芸を覚えたんだよ。 死ぬ思いをすれば馬だって何でもできる」

 今年に入り、馬の異常死が相次いでいる。細川さんは埋められず放置された5頭の死骸を見せた。1頭は骨しか 残っておらず、身ごもっていた別の1頭の脇には子馬の亡骸も並んでいた。キツネなどに食べられ、無惨な姿だ。

 家畜保健所の検査で伝染病ではないことが判明した。栄養失調でもないという。

 「チェルノブイリに行ったことのある先生に『チェルノブイリの動物と同じ症状。調べてもらったほうがいい』と 言われた」

 東北大学が死体の一部を持ち帰って解剖している。村役場の職員は一度も来ない。

 村の帰村方針に細川さんは冷ややかだ。「若い人たちは戻ってこないよ。原発はしょっちゅう(放射能が)漏れて る。うちの馬も放射能でこうなったんだから。店もないし働くところもない」

 もとの暮らし豊かな飯舘村には戻れない。「夢も希望もないんだから。こんな悲しいことないよ。生まれ育ったと ころに帰れないなんて」

この事実を伝えていく

 実行委員会のメンバーは馬の死骸にショックを受けた。

 「悲しくなった。せめて埋めてあげてほしい。放射線は見えず実感できないが線量高くて大変」(24歳Yさん)

 「馬を見捨てて他のところに行けないと聞いて、馬が大事なんだなと実感した。何かできることがあればやりた い」(24歳Iさん)

 Tさん(25)は人が住めなくなった土地の異様な雰囲気が印象に残った。「飯舘から浪江に向かう途中の人のい なさがすごい。放射能だけの問題じゃなく、経済が成り立つだけの人がいないし、店も開いてない」

 今後、官邸前や関電前の金曜行動で今回の飯舘村訪問について報告していく。




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