2013年05月31日発行 1282号

【ユニクロ「世界同一賃金」の狙い/ブラック企業の使い捨て戦略/“仕事できぬ者は年収100万で”】

 ユニクロの持ち株会社ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が「世界同一 賃金」を導入する考えを示した。すでにブラック企業と評されるユニクロだけに、この構想は人件費削減を意味する ものと批判が高まっている。ユニクロ1企業のブラック度の問題ではない。1%の連中が99%の人々の命を削り自 らの儲けを増やしていく新自由主義システムの典型的な例だ。人間らしい生活を取り返すには、新自由主義を掲げる グローバル資本主義の社会をつくりかえるしかない。

うつ病、退職覚悟

 「社員は、どこの国で働こうが同じ収益を上げていれば同じ賃金、『同一労働、同一賃金』というのが基本的な考 え方。新興国や途上国にも優秀な社員がいるのに、同じ会社にいても、国が違うから賃金が低いというのは、グロー バルに事業を展開しようとする企業ではあり得ない」―朝日新聞(4/23)が掲載した柳井会長のインタビュー だ。

 ILO(国際労働機関)憲章に定める“同一価値労働、同一賃金”は賃金差別をなくすためのルールだ。柳井は、 「同一労働、同一賃金」のフレーズを使って「世界同一賃金」と言っているようだが、低賃金にあえぐ途上国労働者 の救済を意図したのではない。核心は次にある。

 「仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万 円の方になっていくのは仕方がない」「(付加価値をつけられなかった人が退職する、場合によってはうつになった りする)そういうことだと思う。日本人にとっては厳しいかもしれないけれど。でも海外の人は全部、頑張っている わけだ」。つまり、会社に利益をもたらさない者は途上国の低賃金で十分、いやならやめろというのである。これが 柳井の「世界同一賃金」だ。

ふるい落とし

 ユニクロのブラック度はサービス残業の常態化や3年以内離職率がここ数年50%前後、休職者の42%が精神疾 患などの驚くべき数字が示しているが、柳井がいう「100万円賃金」を強いる賃金体系とはどんなものか(別表参 照)。

 週刊東洋経済(3月9日号)によれば、ユニクロの賃金体系は19の段階(グレード)にわけられている。トップ は柳井1人が就けるK4、年収4億円だ。入社1年目はJ1、平均年収320万円。半年に1度実施される「店長代 理資格認定試験」に1回で合格すればすぐに店長に抜擢(「半年店長」として優遇)され、S2(平均年収510万 円)のグレードに移れる。入社2年、4回目の試験に合格しないと、新採以下に降格となる。

 ノルマの強要、懲罰体系が大量の離職者や精神疾患による休職者の原因との指摘を受け13年度からは「半年店 長」、降格制度の一部見直しを行うというのだが、「100万円賃金」の脅しを見れば決して反省をしているわけで はない。

 店長職の実態はすさまじい。『ユニクロの光と影』(横田増生著・文芸春秋)によれば、マニュアルに定められた 店長業務をこなすには月300時間以上の労働量となる。しかし会社は月240時間以上働くと罰則を加える。必然 的にサービス残業が常態化する。

 本部から指示された利益目標を達成するために店長にできることは人件費を削ることしかないという。標準店と呼 ばれる店舗には総勢40人前後の従業員がいるが、正社員は店長の他、店長代行(地域限定型社員か契約社員)の2 人だけ。月間100時間以上の労働が可能な準社員と100時間以下のアルバイトは非正規だ。柳井の言う「付加価 値をつける」ことができるかどうかは、この非正規雇用の人数をいかに削ったかで決まる。


労働力の再生産

 2020年までに売上げ高5兆円をぶち上げている柳井。店舗は今の4倍の4千店とし、年間1500人の店長を 育てる方針だ。その手法は、採用2年でふるいにかけ、無報酬労働に耐え企業に忠誠を尽くす者以外は切り捨てる大 量採用、大量解雇。「世界同一賃金=100万円賃金」は、思い通りになる労働者を選別し、それ以外を「自発的」 退職に追い込むシステムに他ならない。

 そもそも労働者の受け取る賃金は、「付加価値の多寡」で決められるものではない。

 賃金は労働力を提供する対価である。商品の生産販売によって企業が存続するように、労働者も8時間の労働力を 売って生命を維持し、次の労働力を再生産しているのであり、それができないような安い値段では売れないのが労働 力なのだ。労働者が家庭を持ち、子どもを育て、健康で文化的な生活を送るに足る収入を得ることができなければ、 社会は破綻する。

 長者番付日本1位(米経済誌フォーブス調査)の柳井が4億円の年収を手にできるのは、万という数の労働者を使 い捨てていくシステムに支えられたものだ。

 柳井は語る。「グローバル経済というのは『Grow or Die』(成長か、さもなければ死か)」。グローバル資本主義で生き残るためには、労働者を使い捨てにする犯罪行為をも辞さないとの宣言だ。これは柳井に 限った話ではない。1%の連中が考えるのは、99%の人々の命を削って、いかに自分の儲けにつなげるかというこ としかない。


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