2013年08月09日発行 1292号
【自民改憲案に軍法会議／平和主義原則を否定する石破発言／「戦争に行かない者は死刑だ」】 |
| 憲法論議が深まらずに終わった参院選。これは安倍自民党が世論の反発をおそれ
て争点化を避けたせいだが、「生活に直接の影響はない」と思っている人も多いのではないだろうか。いや、改憲は
命にかかわる問題だ。自民党幹部からは「国防軍の出動命令に従わない者は死刑だ」なんて恐ろしい発言が飛び出し
ているのである。 「腰を落ち着けてしっかり議論を深めたい」。参院選後、安倍晋三首相は憲法「改正」について、こうした発言を くり返している。もちろんこれは表向きのこと。ある自民党幹部は「何でもできる基盤があるうちに、憲法改正など ダイナミックな改革に手をつけてほしい」（7/22朝日）と期待を寄せる。安倍本人も同じ思いであろう。 「大勝」で浮かれる党内の空気を象徴するように、細田博之幹事長代行は７月22日、ＢＳフジの番組でこう語っ た。「憲法は不磨の大典ではない。法令の一つだ。日本国憲法というと立派そうだが、日本国基本法という程度のも のだ」 近代憲法の原則を無視した、とんでもない暴言である。人びとの基本的人権を侵害しないように、最高法規である 憲法によって国家権力を制限する−−そうした立憲主義の考えを否定する理由は一つしかない。憲法によって縛られ るのが嫌なのだ。 「法令の一つ」なら、国会で多数派を握れば思うままに変えることができる。細田発言には、憲法を権力者の道具 にしたいと願う自民党の発想が如実にあらわれている。 そんな連中が望む憲法（自民党憲法「改正」草案）が実現すれば、私たちの生活は激変する。憲法はある意味「空 気」のような存在で、普段はその重要性を意識しないが、「空気」だからこそ皆の命にかかわるのである。 人殺しのために必要それを端的に示したのが、石破茂幹事長の「出動命令拒否は死刑」発言だ。（ＢＳ−ＴＢＳの報道番組、4/21 放映）。自衛隊を国防軍に改編（草案９条の２−１項）して何が変わるのかと聞かれた石破は、「軍事裁判所的なも のを創設するという規定（９条の２−５項）がある」と語りだした。「今の自衛隊員の方々が『私はそのような命令には従えないのであります』といったら、（今の法律では）目一杯 いって懲役７年。 人間ってやっぱり死にたくないし、けがもしたくない。『これは国家の独立を守るためだ』『出動せよ』って言わ れた時、『死ぬかもしれないし、行きたくないな』と思う人がいないという保証はどこにもない。 だからその時に、それに従え、それに従わなければ、その国における最高刑に死刑がある国なら死刑、無期懲役な ら無期懲役、懲役３００年なら３００年（を科す）。『そんな目にあうぐらいだったら出動命令に従おう』っていう ことになる」 つまり、軍の規律を維持するには命令違反への厳罰化が不可欠であり、そのために公開の法廷ではない「軍事裁判 所的なもの」を国防軍には設置するというのである。 石破の言う「軍事裁判所的なもの」とは、軍法会議のこと。自国の軍人や軍属を裁くのが目的で、戒厳令下などで は民間人も対象になる。法にもとづいて判断する普通裁判所と違い、機密保持といった軍の論理が優先される。 軍隊の保持を禁じた日本国憲法は、そのような軍事機関の存在を認めていない。76条２項で「設置できない」と した「特別裁判所」には軍法会議も含まれている。 ところが、自民党憲法「改正」草案は、通常の行政機関を装った「審判所」という名で軍法会議への設置を明記し た。これは自衛隊を「本格的な軍隊」にするための改変だ。人殺しをさせるために、「さもなければお前を殺す」と いう脅しを必要としているのである。 そして、「お国のために死ね」という命令の正当化は、平和主義を基本原則としてきた日本社会のあり方を根本的 に変えてしまうだろう。 脅しで戦争動員「でも軍人の話だろ。俺たちには関係ない」という人もいるだろう。だが、前述したように、戒厳令下では民間人 も軍法会議の対象になりうる。その戒厳令を思わせる「緊急事態」の規定（98、99条）が、自民党憲法案には存 在する。この「緊急事態」においては、憲法の効力が部分的かつ一時的に停止となり、「何人も」国や公の機関の「指示」 に従わねばならないとされている。戦争協力または戦時動員を拒む者には厳罰を処す、ということだ。それこそ「死 刑または懲役３００年」ということになりかねない。 国防軍の想定する戦争とは、「国益＝グローバル企業の権益」擁護を目的とした軍事行動のことだ。そのために命 を投げ出すことを自民党憲法案は求めている。絶対にごめんである。私たちはカネ儲けの道具ではない。 （Ｍ）  |