2013年09月27日発行 1298号

【東京五輪と安倍のウソ/汚染水の影響も健康被害も「ない」ことに/国策の名の下に被害者切り捨て】

 オリンピックの招致演説で、福島第一原発の放射能汚染水問題について大ウソを ついた安倍晋三首相。東京開催の祝賀ムードを煽り、首相のウソを正面から批判しない日本のメディアもひどい。オ リンピックを利用して「国民的熱狂」を創出。不都合な事実を忘れさせて戦争国家に突き進む−−これも「ナチスに 学んだ」手口ですか。

騙しても勝てばよし

 IOC(国際オリンピック委員会)総会における安倍の招致演説は歴史に残るウソ八百であった。「(福島第一原 発の)状況はコントロールされている。決して東京にダメージを与えない」「汚染水の影響は原発の港湾内で完全に ブロックされている」「抜本解決に向けたプログラムを私が責任を持って決定し、すでに着手した」等々。

 これら発言がテレビ中継されると、インターネットの掲示板には「よく平気でこんなことが言えるな」といった書 き込みが相次いだ。安倍寄りが多いと言われるネット住民の反応でさえ、こうなのだ。汚染水流出の影響や健康問題 を「全くない」ことにされた福島県民が怒りを爆発させるのは当然である。

 特に悪質なのは、「今この瞬間にも福島の青空の下、子どもたちはサッカーボールを蹴りながら、復興と未来を見 つめている」などと、子どもを安全PRのだしに使ったことだ。現実には、甲状腺がんの異常多発に示されるよう に、福島の子どもたちは「今この瞬間にも」健康をむしばまれているというのに。

 良心がひとかけらでも残っていたら、「健康問題は全くない。今までも、現在も、将来もないと約束する」なんて ことは言えない。口にしたとしても、やましさが表情に出たり、言葉を濁したりするはずだが、安倍のスピーチには 見事にそれがなかった。

 厚顔無恥というほかないが、考えてみると「相手をあざむいてでも競争に勝て」というのが新自由主義の鉄則であ る。それを安倍は五輪招致という「ビッグ・ビジネス」の場で実践して見せたのだ。

危機的事態は続く

 もっとも、安倍がいくらごまかしても福島第一原発の危機的事態がなくなるわけではない。現状が「コントロー ル」とは程遠いことは、東京電力の技術顧問(山下和彦フェロー)でさえ認めている。

 これに対し、菅義偉官房長官は安倍発言との食い違いをあわてて否定したが、汚染水の港湾外流出については「全 部の水をストップするということではない」と、しぶしぶ認めざるを得なかった。

 「情報を公開せず、疑惑が浮上するとまず全否定する。ほとぼりが冷めたころに事実を認めるので非常にずる賢 い。日本人や日本メディアの忘れやすい気質を巧みに利用している」(9/4毎日夕刊)

 これは、日本で原発事故の取材を続けているフランスRTL放送のジョエル・ルジャンドル記者が、東京電力の隠 ぺい体質を批判した発言である。彼の指摘は、そのまま日本政府にもあてはまる。

 政府も企業もペテン師の集まり。今回の一件で、日本は「お・も・て・な・し」ならぬ「ろ・く・で・な・し」の 国だという印象を世界の人びとに与えたのではないか。

あきれた祝賀報道

 IOC総会でこんな一幕があった。委員から汚染水問題について質問を受けた安倍は、「新聞のヘッドラインでは なく、事実を見てほしい」と答えた。つまり、メディアの汚染水報道は事実ではないと、国際的な舞台で公言したの である。

 本来であれば、日本の報道各社はジャーナリズムの名誉にかけて、首相のウソを徹底的に追及しなければならない はずだ。ところが、東京開催が決まると祝賀報道一色に染まり、汚染水問題を後景に追いやってしまった。

 9月10日付の毎日新聞は、1面に掲載した東京本社編集編成局長・小川一の文章で、「安倍晋三首相のリーダー としての覚悟は国際社会に確かに届いた」と絶賛した。何という忠犬ぶりであろう。

 読売新聞の社説(9/10)は、福島県など8県の水産物の輸入を禁止した韓国政府の措置を、「科学的根拠を欠 く措置だ。東京のイメージダウンを図ったとの見方もある」と斬り捨てた。放射能汚染による健康被害を警戒するこ とは、東京への五輪招致を妨害する行為だと言うのである。

   *  *  *

 独裁者ヒトラーがベルリン五輪を国威発揚の国家イベントとして最大限利用したことは、歴史の教科書でご存じの とおり。改憲の手口を「ナチスに学んだらどうか」(麻生太郎副総理)という安倍政権のことだ。当然、オリンピッ クを政治利用する手口も学んでいるに違いない。

 すでに、原発事故を語ることが東京オリンピック開催に水を差すかのような空気が生じつつある。「チーム日本」 (安倍)の掛け声の下、国策への協力が当然視され、異論を唱える者は「非国民」扱いされる−−これは戦争国家へ の道である。    (M)


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