2013年10月11日発行 1300号
【汚染水対策に妙案なし/安上がり対策でお茶にごす東電・政府/破たん処理して責任をとれ】
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安倍政権は「福島第1原発の安定は課題だ。とくに汚染水問題は国民の関心も高
い」(安倍首相)として、凍土壁や多核種除去装置ALPSの開発などに国家予算を投入することを決めた。税金で
東京電力を救済する一方、子ども・被災者支援法の基本方針案では被災者、避難者を切り捨てようとしている。
「事態は制御不能」
安倍政権が汚染水対策に乗り出すといっても、妙案があるわけではなく、東電の計画を追認したにすぎない。
東電は海側への流出を食い止めるために薬剤で固めた「水ガラス」と呼ばれる壁をつくり、今は全長800bに及
ぶ遮水壁を建設中だ。1〜4号機より山側には地下水の流入を防ぐための凍土壁を造る計画だ。安倍政権は、この凍
土壁に320億円を投入する。これらの対策については、それぞれ根本的問題点が指摘され、全くあてにならない。
水ガラスの壁によって地下水がせき止められ、水位が地表から1・2bまで上昇した。地下水の流入を止めないま
ま、さらに遮水壁が完成すれば、原子炉建屋の地盤が水びたしの状態になり、地震で液状化する恐れがある。山崎久
隆・たんぽぽ舎副代表は「震度6の地震で建屋の周辺は液状化する。放射性物質を含む地下水が土砂とともに噴出
し、手がつけられなくなる」(9/12東京新聞)と警告する。
山側の遮水壁を造るという工法は最長でも1年半程度の土壌を凍らせた実績しかなく、耐用年数も不明だ。田中三
彦・元国会事故調委員は「氷は水より体積が大きく、霜柱と同じ原理で建屋が浮き上がってしまう可能性がある」
(同前)と指摘する。
さらに元日本地下水学会会長の藤縄克之信州大学教授は、海岸部では地下で海水と真水が交流しており、陸側の地
下水を抜くと必ず海水が入ってくるとする(9/23赤旗)。つまり、仮にうまく山側からの地下水の流入を食い止
めることができても、今度は海側から海水が浸透してくることは避けられないというのだ。
来日した米原子力委員会のグレゴリー・ヤツコ前委員長も「事態は制御不能なところまで来ている。地下水はコン
トロールできない。できることは影響を和らげることだけだ」(9/24共同)と述べる。
それほど、水のコントロールは難しい。
「命よりカネ」の東電
情報を小出しにして真実がわからないようにするというのが東電の常套手段だ。福島第1原発の敷地の地中に大量
の地下水が流れ込んでいることは建設当初からわかっていた。東電は、事故前から1日850dもの地下水を井戸か
らくみ上げていたという。したがって、炉心がメルトスルー(溶融貫通)した時点で、汚染水処理が最大の課題にな
ることは予測できたはずだ。
事実、事故から3か月後の11年6月に地下水の流入を食い止めるための遮水壁を建設する計画案が浮上した。政
府からの指示で、東電はいったん「1〜4号機原子炉建屋およびタービン建屋の周りに遮水壁を構築する」「地下バ
ウンダリ(発電所の周りに壁を構築し遮水するもの)は現在、最も有力な対策と位置づけ」とする計画案を作成し
た。
ところが、その後東電内部で「仮に1千億円レベルの更なる債務計上を余儀なくされることになれば、市場から債
務超過に一歩近づいた…との厳しい評価を受ける可能性が大きい。これは是非避けたい」(福島原発告訴団が証拠と
して提出した東電内部文書より)との反対意見が出たため対策を先送りし、安上がりな応急措置でお茶をにごしてき
た。
その結果、1日に300〜400dの汚染地下水が港湾内に流れ出、また1日600億ベクレルの放射性物質が外
洋に放出され続けている。
東電は、事故を引き起こした当事者としての責任、環境の汚染を食い止めるという責任よりも経営上の都合を優先
した。まさに「命よりカネ」の体質そのものだ。
汚染水問題の解決も福島事故原因の検証もないまま9月27日、東電は新潟県柏崎刈羽原発の再稼働への安全審査
を申請した。これも、10月末を期限とするメガバンク融資の継続のため。「命よりカネ」は今も徹底している。
収束宣言撤回せよ
国民が東電に不信感を持ち、政府に汚染水対策を求めているのは当然だ。だが、東電を残したまま政府が国家予算
を投入するのは、税金を使っての東電救済でしかない。
これだけ甚大な事故を引き起こしながら、誰ひとり刑事責任も経営責任も問われないことは許されない。経営破綻
するから必要な汚染水対策をとらないなどというのは、社会的責任を持つ企業として全く失格だ。
国家予算を投入する前に、まず東電を破綻処理して、資産をすべて売却し、すでに支払われた役員の退職金なども
回収すべきだ。破綻処理すれば東電の株価はゼロになり融資も返済できなくなるが、これまで株主配当や利子でさん
ざん儲けてきた株主や銀行の責任を問い負担をさせるのは当然のことだ。
安倍は、原発事故を過去のものとすることを狙っている。子ども・被災者支援法の基本方針案で法の理念を無視し
て支援対象地域を福島県浜通りと中通りに限定したのも、それ以外の地域に原発被害は存在しないとの虚構を強引に
既成事実化するためだ。
チェルノブイリ法で放射線量が年間1_シーベルトを超える地域には移住権が付与されたのと比べても、日本政府
がいかに国民の命や健康を軽んじているかは明らかだ。
原発事故は収束していない。福島県では現に小児甲状腺がんが異常多発し、東北・関東の広い範囲にわたって子ど
もたちは放射線被曝の危険にさらされている。政府はただちに「原発事故収束宣言」を撤回しなければならない。少
なくとも法令で定めた年間放射線量1_シーベルトを超える地域に居住する(居住していた)市民に避難の権利を保
障し、国民の命と生活を守る措置をとらなければならない。
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