2013年11月22日発行 1306号

【どくしょ室/トップシークレット・アメリカ 最高機密に覆われる国家/デイナ・プリースト&ウィリアム・アーキン著 玉置悟訳 草思社 本体2600円+税/秘密国家は市民弾圧国家】

 安倍政権が制定しようとしている秘密保護法のルーツは米国にある。では、本家アメリカではどのような問題が起きているのか。本書は、無数の最高機密に覆われ情報の迷宮と化した米国社会の現実を、丹念な取材で暴き出した調査報道の労作である。

 9・11以降、米国ではテロとの闘いという大義名分の下、膨大な量の情報が正当な理由もなく最高機密指定されるようになった。議会のチェックもまったく及ばない。上下両院の公聴会に呼ばれたCIA(米中央情報局)対テロセンター所長はこう言い放った。

 「9・11ののち、グローブは外されたのです(素手の殴り合い、すなわち本格的な殺し合いになるとの意味)。あなた方が知る必要があるのはそれだけです」

 国家の重要政策に関わる情報はごく少数の者だけが知っていればいい。国民は黙って従え、というわけだ。国民主権や民主主義を否定する暴言だが、これが秘密保護法制を作りたがる支配者連中の本音である。

 極端なまでの秘密主義は国策を誤る結果となる。イラク戦争がその例だ。情報機関が提出したリポートは内容がすべて機密指定されているので、議員たちは特別な部屋で1人で読むことを強いられ(秘書や専門家の同席は不可)、メモを取ることも許されなかった。大量破壊兵器の嘘を見抜けなかった背景には、このような事情もあったのだ。

 何でも秘密にする国家は、個人の情報を何でも知りたがる国家でもある。9・11以降、ハイテク監視システムが全米を覆うようになった。著者の取材によると、これらのシステムは「テロリストの摘発」に費用対効果があるとはいえない。現場の捜査官は昔ながらの地道な捜査活動のほうに信頼を置いている。

 にもかかわらず、監視システムの構築には青天井の予算がつき、拡大する一方だ。一体何が目的なのか。それは国家が国民の動向を監視し、掌握することだ。たとえば、北米大陸を管轄する北方軍の「電子マップ」には1100万人以上の市民の個人情報が入力されている。

 FBI(米連邦捜査局)のデータベース「ガーディアン」は、“不審な行動”をしたと報告されただけで何一つ犯罪を犯していない市民や居住者の個人情報を大量に保存している。「湾を行く消防艇やフェリーを携帯電話のカメラで撮影していた」程度のことが「不審行動」とされ、FBIの対テロ班に報告されているという。

 こうした監視国家化はいったん始まると歯止めがきかない。テロビジネスで儲ける軍事産業やセキュリティ産業が政治と結びつき、無限に増殖・拡大していく。まさに新たな産軍複合体ではないか。

 本書カバーに「いずれ日本もこうなるのか!?」とある。米国の現実は「戦争国家の市民弾圧法」という秘密保護法制の正体を教えてくれる。秘密保護法案反対の運動を広げていく上で、タイムリーな書だ。(O)
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