2013年12月06日発行 1308号

【公安警察が喜ぶ秘密保護法/やりたい放題の監視国家になる!/弾圧の標的は一般市民】

 一部野党を抱き込むために、秘密保護法案を一部「修正」した安倍政権。だが、戦争のための人権抑圧立法という法案の本質に変化があるわけではない。政府・公安当局は秘密保護法を使ってあらゆる個人情報を収集し、市民を監視することを狙っている。標的は一般市民なのだ。

公安当局の権限拡大


 秘密保護法案という名前からは「国家機密の漏えいを防ぐための法律」との印象を受ける。たしかに、立法の目的に軍事情報の秘匿があることは事実である。しかし、本当にそれだけなのか。

 法案が「特定秘密」の対象に掲げるのは、防衛、外交、特定有害活動(いわゆるスパイ行為など)の防止、テロ活動の防止、の4分野。このうち防衛と外交に関しては、秘密保護を徹底するための法律がすでにある(自衛隊法や外務公務員法など)。

 秘密保護法の制定で政府が新たに手にするのは、特定有害活動及びテロ活動防止に関する情報を秘密にする権限だ(担当は警察と公安調査庁)。そして、法案(別表第3号、第4号)には警察関連の情報が対象秘密としてふんだんに盛り込まれている。

 ということは、立法の真の目的は公安当局の権限拡大にあるのではないか。事実、秘密保護法案を作成した内閣情報調査室には警察庁からの出向組が大勢いる。その主軸は、トップの内閣情報官をはじめ、「公安畑」を歩んできたキャリア官僚たちなのだ。

 日弁連・秘密保全法制対策室本部の事務局長を務める清水勉弁護士は「この法案で一番うまみを得るのは公安警察だ」と指摘する(11/13琉球新報)。「法が施行されれば、スパイ活動防止やテロ活動防止だとして任意の取り調べが増え、捜索もしやすくなって情報収集が活発化するだろう。スパイ活動やテロ活動の定義もあいまいで、秘密が無限に広がる可能性がある」

 戦前の日本がそうだったように、安倍政権は戦争に反対する市民の動きを未然に封じ込めようとしている。その実動部隊を担う公安警察の強力な武器として、秘密保護法が用意されているのである。

物言えぬ社会に

 具体的にみていこう。秘密保護法案には「適性評価」という項目がある。「特定秘密」を扱う者の適性を確かめるために、行政機関の長が(1)スパイ活動やテロ活動との関係(2)犯罪歴(3)病歴(4)飲酒の節度(5)経済的な状況−などについて調べる制度だ。本人だけでなく、家族や親戚、知人も調査対象に含まれる。

 その役割を誰が担うのか。十分な調査能力を持つのは警察以外にない。法案は「公務所もしくは公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる」(第12条4項)と定めているが、これは公安警察に調査を依頼するための規定とみてよい。

 かくして、秘密の取扱者やその家族は公安警察の日常的な監視下に置かれ、「不審な動きはないかどうか」チェックされ続ける。そして彼らと接触した者(友人、ジャーナリスト、弁護士等々)も皆、監視の対象となる。

 情報収集の方法としては、盗聴や通信傍受のほかに、スパイ行為や密告の奨励がある。法案25条は未遂罪や共謀罪について「自首」した者の刑を軽減・免除するとしている。これは明らかに市民運動等の弾圧を想定した「密告のすすめ」ではないか。

 警察のこのような行為、たとえば盗聴を告発しようとしても、それ自体が「特定秘密」扱いなので、探ろうとした側が罪に問われてしまう。まったく恐るべき監視国家というほかない。自由に物も言えない社会を安倍政権は作ろうとしているのである。

安倍またも大ウソ

 すでに防衛省は「適性評価」を先取りする形で、秘密を扱う自衛隊員や職員の身辺調査を行っている。身上調書の記入内容は、本人の日本国籍取得の有無や海外渡航歴、配偶者・親族の国籍や住所、交友関係や所属団体、借金の有無など19項目にわたる。

 交友関係では、友人や交際相手の氏名、国籍、住所、生年月日、職業・勤務先に加え、「つり仲間、カラオケ仲間」といった関係性を書かねばならない。所属団体は趣味の集まりや宗教団体まで尋ねられる(過去の所属団体も含む)。また、「情報保全部署の求めに応じ、携帯電話通話記録など個人情報を提出する」との誓約書も書かされる。

 自衛隊関係者の内部告発によると、今でも自衛隊は公安警察と連携し、隊員と接触した者(取材記者や平和運動団体のメンバーなど)の個人情報を収集しているという(11/8赤旗)。秘密保護法が成立すれば、これが全省庁規模に広がるのだ。公安警察の監視対象は飛躍的に広がり、国家機密とは無関係な人までプライバシーを探られる。

 安倍晋三首相は11月20日の国会答弁で、一般市民が特定秘密の漏えいなどで罰せられる機会は通常起こり得ないとの認識を示した。「汚染水は完全にブロック」並みの大ウソにだまされてはならない。秘密保護法は私たち市民を狙っているのである。 (M)

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS