2014年04月18日発行 1326号

【集団的自衛権に「限定」なし/自民・石破幹事長がホンネ発言/全世界に派兵し、武力行使】

 「自衛隊の活動範囲に地理的な制限を設けるべきではない」「(自衛隊員の戦死を)政治が覚悟しなきゃいけない」。集団的自衛権の行使容認をめぐる石破茂・自民党幹事長の発言が波紋を広げている。石破の発言は安倍政権が本当にやりたいことを語ったものである。「限定容認」や「歯止め」など、まやかしにすぎない。

限定容認論と相反

 問題の発言は4月5日、テレビ東京の番組で飛びだした。憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を容認した場合の自衛隊の活動について、石破は次のように語った。「(自衛隊が)地球の裏まで行くのは普通は考えられないが、日本に非常に重大な影響を与える事態と評価されれば、完全に排除はしない」

 つまり、自衛隊の活動範囲に地理的な制限を設けるべきではない、ということだ。石破は番組後、記者団に「地理的な概念で制約されるものではない。遠隔地でも日本に重大な影響を与える事態が起きた時、行かないのは日本の抑止力としてどうなのか」と疑問を呈した(4/6朝日)。

 石破発言は自民党内で最近浮上してきた「限定容認論」と相反する。「限定容認論」とは、「国の存立を全うするための必要最小限の集団的自衛権」に限り行使を可能にする考え方をいう。提唱者の高村正彦副総裁は、自衛隊の活動範囲について日本近海を例示し、外国領内の戦争への参加は除外するとした。

 安倍晋三首相は「地理的な限定は政策的手段として取っていく上では当然入ってくると思う」(4/8BSフジの番組)と語るなど、「限定容認論」に同調する姿勢を示している。しかし、記憶力のいい人なら覚えているはずだ。安倍が昨年9月の訪米中に「(自衛隊の派兵地域は)国民の生命と財産、国益を確保するという観点で検討する。地理的な概念で『地球の裏側』という考え方はしない」と述べていたことを。安倍と石破は同じ考えなのだ。

多国籍軍への参加も

 そもそも、安倍政権は武力行使をともなう多国籍軍にも自衛隊を参加させようと画策している。政府は昨年10月、「イラクのクウェート侵攻のような武力攻撃」と題した想定について、首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」に示し、対処のあり方について検討を求めた。

 その回答が5月連休明けにも提出される安保法制懇の報告書に盛り込まれる。憲法9条1項は「国際紛争を解決する手段」としての武力行使を永久に放棄すると定めているが、報告書では「国際紛争」の解釈を「日本が当事国である国際紛争」と変更するよう求めるという(4/12朝日)。

 日本が当事国ではない国際紛争なら海外での武力行使もOKということだが、軍事活動に参加した時点で日本は当事国だ。これほどでたらめな憲法解釈が成り立つなら、自衛隊の海外派兵に関する憲法上の制約はなくなる。世界中で起きるどのような国際紛争にも参戦し、武力行使できるということだ。

 こうした「武力行使のフリーハンド化」をもくろむ安倍政権が、自衛隊の活動範囲を地理的に限定する考え方に本気で賛同するはずがない。「限定容認」は、戦争を不安視する世論の高まりを鎮めるための方便にすぎない。

殺し殺される国に

 ではなぜ石破はあえて本音を口にしたのか。それは世論対策である「限定」の強調が、今後の軍事活動の足かせとなることを嫌ったからである。どこかでごまかしに終止符を打たなければ真の戦争国家に脱皮できないと、彼は思っているのだろう。

 事実、石破は前述の番組で、アフガン戦争に集団的自衛権を行使して参戦した国の軍隊が多数の死者を出したことから「日本にその覚悟があるのか」と問われ、「政治が覚悟しなきゃいけない。内閣が吹っ飛ぶからやめとこうというのは政治が取るべき態度ではない」と語った。「自衛官は危険を顧みないとの誓いをしている。危険だからやめようということがあってはならない」とも強調した。

 しかし、自衛官は「わが国を防衛するために」、「危険を顧みず」「身をもって責務の完遂に務め」と宣誓している(自衛隊法施行規則39条)のであって、地球の裏側の国際紛争に参戦する任務など想定していない。集団的自衛権の行使容認は自衛隊の役割を根本的に転換することを意味しているのである。

 経済同友会が昨年4月に発表した提言は、「在外における資産、人の安全」や「日本の繁栄と安定の基盤をなす地域と国際秩序」も「国益」含まれるとし、その防衛のために集団的自衛権の行使容認が必要だとした。自衛隊(=軍隊)に日本企業の権益を守る番犬の役割を担わせようとしていることがわかる。

 グローバル資本のビジネスのために武力を行使し、邪魔となる「敵」を殺すこと。その代償として戦死者が出ること−−安倍政権が狙う集団的自衛権の行使容認とはこういうことである。「限定容認」なる、その場しのぎの嘘を信じてはいけない。  (M)

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