2014年09月19日発行 1346号
【東電に4900万円の賠償命令/原発事故が自殺の原因】
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福島原発事故後、強制避難区域から避難生活中に自殺した渡辺はま子さんの夫・幹夫さんが、東京電力に9100万円の損害賠償を求めていた民事訴訟で福島地裁は8月26日、「妻の自殺は原発事故が原因」とする原告の主張を認め、東電に4900万円の賠償を命じる判決を言い渡した。福島県内の強制避難者に対する裁判所の賠償命令はこれが初めてだ。
「個体の弱さ」と東電
渡辺さん夫婦が住んでいた福島県川俣町山木屋地区は、飯舘(いいたて)村に隣接し、旧計画的避難区域として強制避難となった(現在は居住制限区域、避難指示解除準備区域に再編されているが、渡辺さんが住んでいた地域は放射線量の高い居住制限区域にある)。
渡辺さん夫婦も国の避難指示に従い福島市に避難。その後の2011年7月、「一時帰宅」していた山木屋の自宅ではま子さんがガソリンをかぶって焼身自殺した。自殺の前夜、はま子さんは幹夫さんに「避難先のアパートには戻りたくない」と漏らした。
幹夫さんは「妻は避難後に食欲減退や抑うつなどのストレス症状を示すようになった。妻の自殺は原発事故による環境の激変が原因」として提訴。裁判では和解を勧告されたが、「東電の責任を判決に明記してほしい」として拒否していた。
裁判で、東電ははま子さんの自殺を「個体の脆(ぜい)弱性が原因」とする許し難い主張をした。避難者全員が自殺に追い込まれたわけではなく、はま子さんが自殺したのは「個体=本人が弱いから」だ、という主張である。自ら原発事故を引き起こし故郷を奪っておきながら、「弱者は死んでも仕方ない」と居直ったのだ。
「個体」という表現自体、冷酷でおよそ人間に対するものではない。犠牲者を単なる「数」としてしかとらえない東電の非人間的体質を余すところなく表している。
控訴断念に追い込む
判決で福島地裁は「住環境が激変し、安住の地を失ったストレスは耐え難いものだった」「過酷な経験が耐え難い精神的負担を強いた」として原発事故による避難が自殺の原因と認定。避難者の中から自殺者が出ることも「予見可能だった」として、「個体の脆弱性」を自殺の原因とする東電の不当きわまりない主張を一蹴し、賠償を命じた。
原告代理人の広田次男弁護士は「今後も続く原発事故を原因とする賠償の裁判の先例として、極めて大きな意味を持つ。人の死に対し、そろばん勘定だけで応じようとした東電への怒りがこの裁判。東電は真摯に受け止め、被害者の立場で賠償に応じるべき」と判決を評価する。
東電は9月5日、控訴を断念し判決を受け入れることを表明。判決が確定した。
国・自治体、原子力ムラあげての棄民政策の結果、事故後3年半を経過しても避難住民は全く先の見通しが立たない状況にある。行政は住民の被曝管理を空間線量から個人線量計による管理に変更し、年0・23マイクロシーベルト(年1ミリシーベルト)の除染目標を放棄。危険な汚染地域への帰還だけが強引に進められている。画期的判決を引き出し、東電を控訴断念に追い込んだのは、こうした棄民政策に対する世論の怒りと市民の闘いだ。
再稼働阻止へ大きな意義
今年5月には、福島県から京都市に自主避難した男性が、職を失ったことによる損害の賠償を求めて提訴した裁判で、京都地裁が1年間毎月40万円を支払うよう東電に命じる判決を言い渡している。
これまで住民の被害と原発事故との因果関係を狭くとらえ被害を切り捨ててきた司法が、「原発事故がなければ起こり得なかった被害」の事実を明確にすることで積極的に救済する方向に変化している。強制か自主的かにかかわらず避難者の被害を賠償させる流れが強まっている。
今回の判決は、福井地裁による大飯原発運転差し止め判決(5月)、東京検察審査会による東電元経営陣3人に対する起訴相当議決(7月)に続く大きな意義を持つ。
刑事・民事の両面で政府・原子力ムラの責任を追及することは再稼働を阻止する力ともなる。原発再稼働に「反対」は、朝日新聞の59%をはじめどのメディアの調査でも過半数を大きく超える。安倍政権にとって原発再稼働は容易ではない。
見せかけの内閣改造で危機乗り切りを図る安倍政権を打倒する闘いと結び、すべての被災者・避難者への完全賠償、全原発廃炉を実現しよう。
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