2015年03月13日発行 1370号

【どくしょ室/福島第一原発事故 7つの謎/NHKスペシャル『メルトダウン』取材班著 講談社現代新書 本体840円+税/根底から崩れる「安全神話」】

 本書は、NHKスペシャル『メルトダウン』シリーズを担当した取材班が福島第一原発事故の「7つの謎」を解明するために続けた検証取材や実験の結果を明らかにしたものだ。

 1号機のベント(格納容器内の圧力を下げるために気体を放出する装置)はウェットウェルベントで、放出される気体に含まれている放射性物質の量を1000分の1にまで減らせるはずだった。それなのに、国の試算の100倍を超える大量の放射性物質が放出された。なぜか。

 99・9%の放射性物質を除去できるというのは常温でのことだ。1号機は津波により直流電源が失われ、IC(非常用復水器)も動いていなかった。このため、圧力抑制室は想定を上回る高温高圧状態になったと考えられる。取材班が専門家の協力を得て行なった実験で、水温が沸騰温度に近くなると放射性物質は水に取り込まれることなく、圧力抑制室の上部の気層に放出されることがわかった。セシウムはおよそ40%が放出したと考えられる。

 原子力規制委員会は新規制基準において、フィルター付きベントの設置を義務づけている。だが取材班は、過酷事故で水が沸騰した場合でも放射性物質の除去率が本当に変わらないのかと疑問を投げかける。

 東電は「全体の放出量のうち、1号機からは2割程度、2号機は4割強、3号機からは4割弱が放出されたとみている」と発表している。2号機は、運転員が停電前に非常用冷却装置RCICのレバーを操作して装置を起動させたため、冷却機能が働いた。だが、RCICが止まると原子炉の水位が下がり、圧力も急上昇し70気圧を超えた。ところがベントもできず、SR弁(主蒸気逃がし安全弁)も開かない。非常用の装置でありながら、非常時に全く役に立たなかったわけだ。実は、格納容器が設計条件を超えた圧力になると、SR弁が開かない設計になっていたという。

 また、ロボットカメラによる調査で新たにわかってきたことがある。1号機の格納容器の底部のサンドクッションドレン管(鋼鉄製の格納容器の表面に結露した水滴を流す管)から勢いよく流れ出していたのだ。専門家は、2000度ほどある燃料デブリは原子炉の下で山のように盛り上がり、格納容器の鋼鉄製の壁面に向かってどんどん広がっていき、あと1bのところまで近づいたと解析した。その結果、鋼鉄製の壁が高温に耐えきれず、どこかが破損したと考えられる。この結果は、メルトダウンが起きても格納容器の健全性は保たれるという「安全神話」を根底から揺るがす衝撃的なものだった。

 安倍政権は原発再稼働に前のめりだ。だが、福島原発事故の真相はほとんど明らかになっていない。再稼働なんてとんでもない。本書はそのことを改めて思い起こさせてくれる。(U)
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