2015年10月16日発行 1399号

【「駆けつけ警護」戦争法発動を許すな/南スーダンは石油利権争奪の戦場/PKOで武力行使狙う】

 戦争法を強行「成立」させた安倍晋三首相は訪米中の9月28日PKO(国連平和維持活動)サミットで自衛隊が軍事行動に踏み込む姿勢を明確にした。戦争法(改定PKO法)を海外での武力行使の根拠とする狙いが鮮明になった。その突破口が南スーダンPKOだ。発動を許さない闘いが問われている。

交戦規則を準備

 「新たな法制のもと、従事可能な業務が広がった。国連PKOへの貢献をさらに拡大していく」。PKOサミットで安倍はこう発言した。

 戦争法による新たな「従事可能な業務」とは、自衛隊の武力行使=軍事行動に他ならない。国連関係者は「これまで避けていた領域に日本は踏み込めるようになる」(9/30朝日)と語った。サミットに参加した各国は、好戦国日本の姿を感じたに違いない。

 同じ28日、防衛省は「部隊行動基準」の改訂作業を公表した。軍の「交戦規則」であり、いつ、どのような場面で、どんな相手に向けて攻撃、発砲するかを定める。最優先で進めているのは、アフリカ中部南スーダンPKOに派遣する自衛隊に「駆けつけ警護」をさせるためのものだ。「駆けつけ警護」とは、他国軍やNGOスタッフが武装勢力などに襲撃された時に武器を使って駆けつけ助ける任務とされ、これまでは憲法違反でできないとしてきた。

 1992年PKO法成立当時は、武力行使を隊員個々の判断で行う「護身用武器使用」と言い換え、ごまかしていた。99年「上官の命令による武器使用」に改定、01年には凍結していたPKF(国連平和維持軍)任務を解除したが、軍隊としての武力行使は憲法違反との建前は崩せなかった。

 今回の改定PKO法で、「業務を妨害する行為を排除するため」なら武器使用ができると加えた。何のために、何をしようとしているのか。

石油利権の争い

 なぜ南スーダンにPKOが必要だったのか、見てみよう。

 スーダンでは20年に及ぶ紛争を経、2011年7月、南部10州が住民投票により南スーダンとして分離独立した。だが紛争は独立後も続いた。スーダンとの交渉役であった副大統領が解任され、南スーダン内部で大統領派と副大統領派の内戦状態になっている。

 メディアは紛争の原因を民族や宗教の違いなどとするが、根本は石油利権である。78年米石油大手シェブロンが油田を発見して以来、中国、マレーシア、インドなどの企業が利権争奪戦を繰り広げている。油田の75%は南スーダン領土になったが、スーダンのパイプラインを利用しなければ輸出はできない。使用料をめぐり、たびたび生産停止に追い込まれる南スーダンはスーダンを迂回するパイプラインをほしがっている。ウガンダ、ケニアなど周辺国でも油田発見が相次ぎ、中国や日本企業などがパイプライン計画を争っている。

 南スーダン情勢は石油利権を中心に回っている。国連南スーダン派遣団(UNMISS)には61か国が参加。中国、インド、ルワンダ、ケニアなど利害が絡む国が多い。「積極的平和主義」を掲げ海外派兵拡大にのめりこむ安倍政権にとって、利権のための軍隊駐留こそ本来の目的なのだ。

紛争拡大する軍隊

 「駆けつけ警護」の実態を暴く文章がある。14年7月集団的自衛権行使容認の閣議決定に危機感を抱いたJVC(日本ボランティア協会)スーダン現地代表今井高樹さんがブログに書いた「スーダン日記」(https://www.ngo-jvc.net/jp/projects/sudan-diary/2014/07/20140711-sudan.html)だ。

 今井さんは、スーダンで市街戦に遭遇。戦闘地域から脱出した経験を持つ。11年6月カドグリ市で起こった市街戦は、政府軍と反政府軍が民兵を動員し、正規兵・非正規兵、「敵・味方」の見分けもつかない状況で銃撃があり、商店の略奪や破壊が行われた。国連と連絡を取ったが、PKFは出動はせず、結局、非武装の救援隊により救出された。

 13年12月には、南スーダンの軍が大統領を支持する「政府軍」と副大統領についた「反政府軍」に分裂。PKFは手が出せない。ところが利害が絡む隣国ウガンダは「在留ウガンダ人保護」を名目に「政府軍」につき、紛争当事者となってしまった。その結果、「反政府軍」支持地域では、在留ウガンダ人襲撃事件が起きるなど、かえって自国民を危険にさらした。

 内戦状態の地域に軍隊が入れば、紛争が拡大するのは明白だ。利権目当ての駐留が民衆の命など全く顧みないのは、イラク戦争で実証済みだ。

ただちに撤退を

 12年1月からUNMISSに派遣された陸海空の自衛隊。いま南スーダンには第8次要員陸上自衛隊約350人が駐留。首都ジュバで道路整備などを行っているとされる。当初予定ではこの8月末で派遣期限は終了だった。現在の内戦ではPKO5原則の「当事者間の停戦合意」が崩れており、PKO法に基づけば直ちに撤退しなければならない。

 ところが、戦争法審議中の8月7日、政府は16年2月末まで6か月間の派遣延長を決定。3月までに改定PKO法を施行し、第9次要員の交代時(5月予定)に「駆けつけ警護」任務を加えた「警護部隊」の増派を狙う。

 いったい誰に銃口を向けるというのか。自衛隊に実弾を撃たせてはならない。戦争法は施行を許さず廃止、スーダンPKOは撤退しかない。



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