2015年10月23日発行 1400号

【福島県楢葉町 高線量地域への帰還強要/人命軽視 戦争法と一体の国策】

大半が20キロ圏

 9月5日、政府は、福島原発事故に伴う避難指示のうち、楢葉町に対する「避難指示解除準備区域」の指定を解除した。避難指示解除は田村市都路(みやこじ)地区、川内村の一部に次いで3例目で、全町避難の自治体としては初めてだ。

 楢葉町は、川内村などと接する浜通りにあり、すぐ北の富岡町とともに福島第2原発の立地自治体に当たる。福島第1原発の20キロ圏内、第2原発の10キロ圏内に町の大半が含まれる。事故直後、20キロ圏内が対象の「警戒区域」に指定され、全町避難となったが、2013年8月の避難区域「再編」で避難指示解除準備区域(年間外部被曝量20_シーベルト以下)となっていた。

 20_シーベルトは原発労働者の年間被曝量と同じだ。避難指示解除準備区域だからといって放射能汚染の状況は一様ではなく、場所によっては20_シーベルト以上となることもある。楢葉町民に対し、原発労働者以上の被曝を強制するのが今回の避難指示解除の本質だ。

 福島第1原発からは、今なお大量の放射能流出が続いている。海への放射能汚染水放出まで行われ、危険は解消していない。こうした中で、原発から至近距離にある自治体で避難指示を解除することは、区域外避難者への住宅支援打ち切りと並んで、住民の危険を無視した帰還強要政策だ。

 チェルノブイリでは、年間被曝量1_シーベルト以上の地域で避難・移住が認められた。今年5月、自民党復興加速化本部がまとめた「2017年3月までに居住制限区域(年間被曝量20〜50_シーベルト)も解除」の方針は、その50倍でも避難者を帰還させようとするものだ。

 帰還強制政策の強化に対し、批判が相次いでいる。大半の地域が「居住制限区域」として帰還対象となる飯舘(いいたて)村では「村民をモルモットにするのか。将来の子孫まで被害者になってしまう」(佐藤八郎村議)、「安心して戻れる環境が整ってから帰還するのは当たり前」(酪農家・長谷川健一さん)と、強制帰還政策に異議を唱えた。同じく、大半の地域で避難指示解除が見込まれる葛尾(かつらお)村の松本静男村議は、今の除染・帰還政策を「被災者を分断し、東京五輪に目を向けさせるためだ」と厳しく批判した。


「アベ友」が被曝強要

 福島では、帰還困難区域を除くすべての避難指示を解除することを前提に、原発のある浜通りを南北に縦断する常磐自動車道と国道6号の通行止めがすでに解除された。「復興」のため、高線量地域を多くの自動車が走行している。JR常磐線も全線復旧の動きが強まっている。

こうした中、いわき市で子どもたちを大量動員した「国道6号清掃ボランティア」活動が繰り返されている。地元の子どもたちがマスクもせず、清掃ボランティアとして放射能がまき散らされた国道の清掃に動員されている。

 このプロジェクトを推進しているのは「ハッピーロードネット」と称する地元の悪徳NPOだ。理事長を務める西本由美子は、改憲派集団「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の代表発起人を務める。他の代表発起人には櫻井よしこを初め、「沖縄の地元2紙は潰せ」発言をした百田尚樹、戦争法制「合憲論」を展開した百地章、テロ賛美発言の長谷川三千子など、札付きの右翼・「アベ友」らがずらりと並ぶ。事務局長は椛島(かばしま)有三で、日本会議事務局長も兼ねる。安倍内閣の閣僚19人のうち16人が日本会議関係者で占められていることを考えると、子どもたちを大量動員した「放射能道路清掃運動」は事実上の国策であり、「ハッピーロードネット」は安倍政権とこれに連なる右翼が一体となった「放射能安全神話」作りの実働部隊に他ならない。

戦争と被曝は同根

 戦争法の参院での強行採決の際には、元イラク派兵部隊「ヒゲの隊長」の佐藤正久が重要な役割を果たした。次世代の党など右翼3野党が戦争法制に賛成するよう、水面下で3野党と自民の橋渡しに暗躍したのが、これも「アベ友」の荒井広幸(新党改革)といわれる。佐藤、荒井はともに福島出身だ。

 安倍政権による被曝・帰還強要勢力と戦争法推進勢力はつながっている。被曝強要政策を転換させ、戦争法を廃止に追い込むために、まず福島から人命軽視の政治の変革を勝ち取らなければならない。
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