2016年04月01日発行 1422号

【戦争法施行へ軍人の権限拡大/「軍人思考」の安倍が元凶/戦争法廃止・安倍打倒を】

 3月29日とされる戦争法施行を前に戦争体制の強化が図られている。それは、安倍が繰り返す「切れ目のない安全保障法制」=日常的臨戦態勢を目指すものだ。

 戦争法施行を前に、防衛省内で画策されていることの一つは、自衛隊の作戦計画策定権限を「背広組」から「制服組」に移譲することだ。

職業軍人の権限拡大

 「背広組」とは防衛省の官僚=文官を指し「制服組」とは自衛官=武官を指す。日本では、戦前軍部が暴走し戦争に突き進んだ反省から、憲法66条で「内閣総理大臣その他の国務大臣は文民でなければならない」との規定を設け、さらに防衛大臣を補佐する背広組が制服組より優位に立つシステムを採用してきた。

 その一つに「参事官制度」があった。官房長、運用局長を含め10人の参事官(文官)が、予算その他のいわゆる「軍政」事項も、自衛隊の運用に関わる「軍令」事項も、すべて統制するしくみだ。「文官統制」である。制服組から防衛大臣に意見具申はできるが、その場合も必ずこの参事官を通すのが原則となる。これは自衛官による政治への介入を許さないという目的からも重要な制度だった。

 だが、安倍は2015年6月、防衛省設置法を改悪し「文官統制」を廃止。背広組と制服組が対等となった。

 文官優位から文武対等となった現在、狙われているのは、武官優位だ。制服組のトップである統合幕僚監部が背広組に対して権限の大幅移譲を要求していた(2/22東京新聞)。自衛隊最高レベルの作戦計画「統合防衛及び警備基本計画」の策定権限をすべて制服組に移譲せよというのだ。

 現行では(1)背広組が基本方針を定めた大臣指針を作成(2)指針に基づき制服組が具体的な作戦計画案を作成(3)背広組が防衛相に承認を申請という手順となっている。つまり、制服組は(1)の段階で背広組が示した枠組み内での(2)の作成をせざるを得ず、(3)の段階でも背広組から内容をチェックされる。これに対し、この(1)と(3)のプロセスまで制服組に権限移譲することは、日本政府の軍事政策から作戦行動に至るすべてを制服組=職業軍人にゆだねることを意味する。

集団的自衛権行使の司令部

 続いて明らかになったのが陸・海・空の各自衛隊を一体運用する「統合司令部」の新設策動だ。現在、自衛隊への指揮命令系統は首相→防衛相→統合幕僚長→各自衛隊となっている。この統合幕僚長の下に統合司令官が束ねる統合司令部を設置し各自衛隊を指揮する。統合幕僚長は防衛相の補佐・予算編成・法令策定と幅広く関与し権限が肥大化しているため、各自衛隊の指揮に特化した統合司令部を置き機動性を高めることが狙いだという(3/12時事)。

 英国の「常設統合司令部」などがモデルとされる。英国の常設統合司令部はNATO(北大西洋条約機構)第5条による集団的自衛権発動に際しての英国軍統合司令部も担う。戦争法の一つである武力攻撃事態法の「存立危機事態」での集団的自衛権行使に際して機動的に武力行使できる体制を整えるということだ。

 部隊指揮を統合司令部にゆだねた統合幕僚長は、より政治に近づくこととなる。

 今の河野統合幕僚長は就任以来、月1〜2回のペースで他国軍の司令官と交流している。米国はもちろんのことアジア太平洋地域の各国からスウェーデン、ヨルダン、オランダまで、いわば職業軍人間の「軍事外交」だ。軍事的に「我が国と密接な関係にある他国」の幅を広げることは、集団的自衛権行使の条件である「存立危機事態」の対象国を広げることとなる。

「文民」と呼べない内閣

 背広組から制服組への権限移譲は当初の「全面移譲」案から「一部移譲」で決着した(3/12毎日)。だが、制服組の権限拡大は今後も続くに違いない。「文民統制」が有名無実化しているからだ。

 中谷元防衛相は防衛大学出身の陸上自衛官で、特殊部隊であるレンジャー部隊の教官だった。戦争法案審議では「現在の憲法をいかにこの法案に適用させていけば良いのかという議論を踏まえて閣議決定を行なった」と述べた。目的である戦争政策遂行のためには手段を選ず、憲法をも捻じ曲げると公言した。退官して国会議員になったとはいえ頭の中は全くの軍人≠セ。

 憲法第66条の規定にもかかわらず、職業軍人上がりを内閣に登用した安倍もまた、迷彩服姿で陸自の戦車にのって満面の笑みを浮かべ、軍事費増で侵略兵器を次々と購入し、武力行使こそが国家の威力発現とばかりにその可能性を次々と広げていく。

 このような内閣が続く限り、制服組の増長はとどまるわけがない。戦争法とともに安倍内閣を葬り去らねばならない。

(注)存立危機事態

 集団的自衛権を使う際の前提になる武力行使の新3要件の一つで、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」とされる。

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