2016年04月08日発行 1423号

【インタビュー ノー!合祀(ハプサ)原告 李煕子(イ・ヒジャ)さん/被害者の人権を無視した「慰安婦」合意/日本人は戦争が好きなのですか】

 日本軍「慰安婦」問題が「最終的・不可逆的に解決される」とした昨年末の日韓両政府の合意について、在韓軍人軍属裁判(グングン裁判)原告であり、長年戦後補償運動に尽力してきた李煕子(イ・ヒジャ)さんに聞いた。(3月15日、まとめは編集部)


世界から非難される

◆合意について感じることは。

 元「慰安婦」被害者から見ると、あまりにも胸が痛いことです。1965年の(両国間の請求権が最終的に解決されたとした)日韓請求権協定は間違った協定であり、今回は人権を無視した合意と言えます。合意は世界から非難されることになるでしょう。

 私は金学順(キム・ハクスン)ハルモニ(注)を思い出しました。1991年12月6日、裁判を起こすため来日しておっしゃった話があります。「日本の土地を全部私にくれたとしても、踏みにじられた青春は取り戻せない。日本が何を間違ったのかを反省して謝罪するために裁判をする」と。

 93年に金泳三(キム・ヨンサム)大統領が「お金は韓国政府が出す。真実の謝罪が必要」と言って韓国政府から生活支援金が出るようになり、被害者は少しでも支援を受けることができ、堂々と謝罪を求めてきたのです。それがなかったら被害者は今も闇の中です。

 朴槿恵(パク・クネ)大統領が一昨年、「慰安婦」問題の協議はうまくいっていると言ったことがあります。何が進んでいるのか気になっていたところ、いきなりこういう形になりました。これが韓国政府の本気だったのか、日本もこういう合意をしたかったのか。両政府に圧力をかけた国があったのではないかと思っています。

 韓国外務省は当事者の声を聞き続けたと言うが、事実ではありません。そして今、大きな反発の運動が起こっています。

 日本大使館前の少女像を撤去しろなど、話にもなりません。いやなら大使館が引っ越せばいいではないですか。像は問題の正しい解決を求めて運動した市民の気持ちで作られたものです。合意後、全国で募金が集まり少女像を作る運動が活発になっています。

なぜ戦争法が通るのか

◆安倍政権の戦争法をどう見ていますか。

 アジアで言えば、中国を敵視する法律でしょう。韓国国民のために北への抑止力としていくと言うのでしょうが、韓国は悪い状況になる。国家を守ると言いながら、政治家たちが国民を戦争に追い立てるものではないか。

 私たちは日本が起こした戦争で被害者となり、朝鮮戦争も経験しました。戦争ができないように、国民が安心して暮らせるようにするのが、正しい政治のはずです。

 安倍政権がなぜこれほど支持率があるのか不思議でたまらない。靖国神社には240万人余の日本人が合祀されている。再び戦争を起こしたら大事な家族が祀られるのに、それが考えられないのでしょうか。日本国民は戦争が好きなのですか。戦場に行かされて死にたいのですか。国家が国民を利用しているのです。

 朴槿恵政権も不安をあおり、戦争準備を進めています。対話をせずには何も始まりません。

 両国政府とも国民のために戦争をなくすためと言いますが、実際には戦争を準備するための法律だと思います。

植民地歴史博物館を

◆日韓市民の連帯を強調されています。

 日本に来て市民、活動家の皆さんと会うと、凍っていた心が解けていくような気持ちです。やはりこの活動を続けていく必要がある。この世に生きている限りは責任があるので、やるべき仕事はやらなくては、と思っています。

 韓国人の遺族の中には、裁判も負け続けているし、やってもしかたがないと思っている人もいます。しかし、私たちが間違っているから負けたのではありません。最善を尽くしたけれど、日本の裁判長によって負けさせられたと私は思っています。

 裁判では原告一人ひとりが陳述します。それが歴史的記録として残ります。今の私の目標は植民地歴史博物館を作ることです。運動の蓄積と経験を展示したい。それを後の世代が受け継ぎ、勉強してほしいと願っています。遺族も来日して支援者と出会うと、日本人も悪い人ばかりではないと気づくのです。そういう気持ちを広げることが私の活動のやりがいでもあります。

◆ありがとうございました。

   *  *  *

(注)金学順(キムハクスン)さん 1991年に元日本軍「慰安婦」として初めて自ら名乗り出た。97年死去。李煕子さんは金さんの初来日に同行し、以来身寄りのない金さんの世話を続けた。今も命日には墓参を欠かさない。

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