2016年04月08日発行 1423号

【国連委が日本政府に勧告/「慰安婦」問題は未解決と指摘/安倍のウソ反論、まったく通じず】

 国連の女性差別撤廃委員会は3月7日、対日定期審査の「最終見解」を発表した。その中で日本軍「慰安婦」問題に関する日本政府の取り組みはなお不十分とし、金銭賠償や公式謝罪など「完全かつ効果的な賠償」を行うよう勧告した。

 昨年12月の日韓合意については「被害者中心のアプローチを採用していない」と指摘。合意の履行にあたっては被害者の「真実、正義、償いを求める権利」を保障し、彼女らの立場に寄り添った解決を目指すよう求めた。また、日本の指導者や政治家が被害者を再び傷つけるような発言をしないことや、教科書でこの問題を適切に取り上げ、歴史的事実を子どもたちや一般の人びとに客観的に示すことも要求している。

 勧告に法的拘束力はないものの、「慰安婦強制連行はねつ造だ」とする反論を試みていた安倍政権にとっては手痛い外交敗北となった。

「朝日の誤報」と主張

 今回の対日審査にあたり、委員会は「慰安婦の強制的な連行」についてのコメントを求めていたが、外務省は当初、詳細な回答を避ける方針を固めていた。国連などの場で互いに非難・批判を控えるという日韓両政府の合意があったからだ。

 ところが、安倍晋三首相側近の衛藤晟一(えとう・せいいち)首相補佐官が「外務省が事実を明らかにしないことが問題をこじらせてきた」と反発。首相官邸の了解を得て方針転換を指示したという。外務省関係者は「首相からも指示があった」と語る(3/5朝日)。そして2月16日、ジュネーブで行われた対日審査会合に臨んだ杉山晋輔外務審議官は、歴史修正主義丸出しの主張を展開した。

 いわく「軍や官憲による強制連行を裏付ける資料はない」「慰安婦が強制連行されたという見方が広く流布された原因は、故・吉田清治氏のねつ造を朝日新聞が事実であるかのように大きく報道したから。性奴隷という表現も事実に反する」等々。

 “慰安婦強制連行は朝日新聞の誤報だ”とする安倍一派得意の論法である。だが、このような詭弁が女性差別撤廃委の委員たちに受け入れられるはずもなかった。

 第一に、軍や官憲による強制連行を立証する公文書は存在する(抑留されていたオランダ人女性を「慰安婦」に仕立てた事件の裁判記録など)。日本政府はその事実を把握しているにもかかわらず、しらばくれているのだ。

 第二に、この問題の本質は女性を「慰安所」に連れて行った方法にあるのではない。国策として「慰安婦」制度を設け、監禁拘束状態のもとで軍人・軍属の性の相手をさせていたことが「戦時性奴隷制」にあたるとして厳しく批判されているのである。

 第三に、そもそも吉田本や朝日新聞によって「慰安婦問題が国際的に広まった」という主張に無理がある。日本や韓国、欧米の「慰安婦」報道を調査した東京大学大学院の林香里教授によると、そのような事実はないという。

 では、日本軍「慰安婦」問題はどのようにして世界に知れ渡ったのか。ほかならぬ安倍首相の言動である。第一次政権時代、安倍は「狭義の強制性はなかった」との論法で責任逃れを図った。この言動が欧米メディアで大きく報道され、米下院での対日非難決議の採択(07年7月)に発展したのである。

 安倍は「朝日の誤報で日本の名誉が傷つけられた」と言う。だが、現実には安倍一派の懲りない言動が「日本の名誉」を貶(おとし)め続けているのだ。

また世界で恥さらし

 今回の最終見解について、日本政府は「極めて遺憾で受け入れられない」(菅義偉(すが・よしひで)官房長官)としている。自民、公明、おおさか維新の各党からも「見解は的外れ」とする反発が相次いだ。もちろん、そのような悪あがきが通用するわけがない。

 国連のザイド・フセイン人権高等弁務官は3月10日の国連人権理事会において、「慰安婦」問題に関する日韓合意に疑問を投げかけた。被害者から批判が出ていることが理由である。また、発言の中で「先の大戦で日本軍による性奴隷になった人びと」と被害者を規定した。

 安倍一派の歪んだ歴史認識や人権感覚は世界の非常識かつ日本の恥。これは動かしようのない事実である。(M)

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